<国学院久我山ラグビー部の食事サポート:下>
チームで受けている食事サポートとは別に、国学院久我山ラグビー部の主将、NO.8大石康太(3年)は、昨年11月から管理栄養士・石村智子さん(56)に個人サポートを受けるようになった。
母が全力サポート、石村さんに師事
約1年前、「大学、社会人でもラグビーを続けたい」と大石の意志が固まった。母則子さん(48)は「それならば今、基礎となる体作りをやらなければ。親としては、それしかできない」と、毎食のアドバイスを求めることを決めた。大石も「上を目指すには、やるしかない。練習してスキルを上げても、土台の体ができていないと勝負に勝てないので、食事と睡眠を見直した」と振り返った。
大きな目的は「筋肉量を増やし、フィジカルで負けない体を作る」。大石親子は石村さんと3人で共有できるアプリを使い、起床時の体重、体脂肪率、毎日の食事内容を伝えた。主に画像は大石が、食事の詳細は則子さんが記入。それを元に、石村さんからコメントをもらい、定期的な面談で現状報告、悩みを相談してきた。
<<個人サポートを受け始めた頃の1日の食事>>
<<1日野菜350gを意識し始めてからの食事>>
基本はバランスの良い食事。ラグビーはエネルギー消費量が多い競技だが、白米を多く摂りすぎず、さまざまな食材を摂るようにしてきた。ご飯の量は朝180グラム、お弁当は350グラム、夜は250グラム程度。違う種類のタンパク質を摂る意味で、例えば肉と冷奴、納豆などのように、主菜は2品を心掛けた。「野菜は1日350グラムを意識し、2品用意。特に緑黄色野菜を使うようにしてきました」(則子さん)。
揚げ物のメニューは油を使わない調理法に工夫し、肉の部位にも気を使った。切り干し大根やヒジキの煮物などを常備し、小松菜、ミニトマト、サツマイモは頻出食材だ。
通学に片道約2時間かかるが、補食はあんパンやジャムパン程度で「しっかり夕飯を摂る」(大石)といったスタイル。増量を目的とする時期は、おにぎりをプラスしてきた。「小さい頃から何でも食べる子だったので、偏食がないので助かっています」と則子さんが言えば、「食事を整えるのは、生活の一部。選手として当たり前のこと」と大石がそれに応じた。
体重微増、体脂肪微減、ケガをしない体に
試合前や合宿中、やり取りができない期間もあったが、この1年間分のデータを見てみると、多少の増減はあるものの体重は2キロほど増量し、体脂肪は数%ダウンした。体調を崩すとすぐに体重が減る大石だが、「毎日の積み重ねで、目標は達成できている」(石村さん)。現在、178センチ、90キロ。
何より大きなケガをしなかった。
スタンドオフでプレーしていた高校1年では冬場に足首の靱帯を損傷し、約3カ月間離脱。フッカーだった昨年は急激な増量がたたり、足の甲を疲労骨折した。痛み止めを入れながら東京都予選準決勝から出場したが、決勝では肋骨を折っていた。
「この1年、ケガをしなかったということが、とても大きなこと」と石村さんから言われると、大石はちょっと照れたような笑みを浮かべた。
自分で食事・体調管理できるように
最近は、自分で食事の管理や調整ができるようになった。チームや国体代表の合宿が続いた8月、どうしても宿舎のご飯は油物のおかずが多く、野菜の量が少なかった。数値では表れないレベルだったが、「自分の中で、体が重くなった気がして」と石村さんに連絡し、その後、体を絞る食事を続けた。
また、ある日の夕食内容について「今日はちょっと緑のものが少ないんじゃない?」と指摘。慌てる母を横目に野菜ジュースを加えるなど、自分で調整することもあるという。
石村さんは「高校生や大学生のサポートの最終目標は、選手が自分で食事管理、健康管理できるようになること。康太くんは、それができるようになってきましたし、高校生でこれだけ管理できる選手はいません」と成長ぶりを絶賛。則子さんは「息子が好きなことを見つけて、一生懸命頑張っているのはうれしいこと。親として、それをサポートできたことに感謝しています」としみじみ語った。
全国高校ラグビー大会は27日開幕。心身ともにたくましく、大きな自信をつけた大石はチームの仲間とともに、間もなく花園へ向かう。卒業後は関東大学対抗戦の強豪に進学。3月から合宿所に入る。将来、桜のジャージを着て、日本代表として戦うことを夢見る18歳は、親元を離れても自己管理し、さらに大きく羽ばたく。
●男の子が生まれたらラガーマンに
大石の両親、父健嗣(けんじ)さん(49)と則子さんの出会いのきっかけはラグビーだった。2人が大学生だった頃は、大学ラグビーの人気絶頂期。プレー経験はないものの、ラグビー好きの2人は「男の子が生まれたらラグビーをやらせようね」と誓い合い、大石を楕円のボールで遊ばせ、小学2年からスクールに通わせた。「何か、引き込んじゃったようで、申し訳ない気がします」と言いながらもうれしそうに笑う則子さん。中高6年間続いた弁当作りも今月で終わり、夕食を供にするのもあとわずかだ。花園には、次男雄介さん(16)含め、家族で応援に行く。「今後は子どもを通じて学んだことを、ほかの家族のために生かします」。やり遂げたような、ちょっと寂しそうな則子さんの笑顔が印象的だった。
【アスレシピ編集部・飯田みさ代】