早大を卒業し、今年からプロテニス選手として活動している細沼千紗(22=福井県スポーツ協会)は試合転戦のため、生活のほとんどを海外で過ごしている。

トルコ、スペイン、チュニジア、韓国…。1つの国で複数の大会に出場するため、滞在期間は1回につき2~3週間。「イメージしていた生活とは違った。海外ではコンビニやスーパーが近くになく、不便なことが多いので、日本の良さを感じている」と話した。

2月にスペインで行われたITFの大会では2週間毎日自炊していた
2月にスペインで行われたITFの大会では2週間毎日自炊していた

成績によって収入を得るプロは、特にコンディションを整えるための食事が重要だ。

トルコでは、ホテルの敷地内のコートで大会が行われたので、ホテルのビュッフェで3食とれたが、スペインは「物価が高いので自炊」。キッチン付きのホテルを借りて、日本から米と簡易炊飯器、カレーやサバのみそ煮などのレトルト食品や各種缶詰を持ち込み、現地のスーパーで肉や野菜を購入して食べた。疲労回復を考えて、鉄の多いレバーや軟骨などを好んで食べていたという。

管理栄養士・山口美佐さんから指導

アスリートの食事の基本と応用は、早大時代に学んだ。

昨年の全日本王座で、早大主将としてシングルスに出場した細沼
昨年の全日本王座で、早大主将としてシングルスに出場した細沼

すでにプロ入りを決めていた3年生の3月、管理栄養士の山口美佐さんが早大庭球部(男女)の栄養管理コーチに就任。細かく指導を受けるようになった。

毎日SNSを使って、体重、食事内容と何時に食べたか、練習後に排尿があったか、飲んだ水分の量などを連絡。山口さんから受けたアドバイスをキャプチャーし、母郁美さんに連絡して、その日の夕食などの参考にしてもらった。

小学生から全国トップクラスの選手で、富士見丘高ではインターハイ単複準優勝、団体優勝の細沼は「食べることが好き」で好き嫌いなし。郁美さんも、バランスの良い食事は意識して作っていたが、山口さんの話を聞いて「改めて見直せたし、勉強になった」と親子で一層、力を入れるようになった。

全日本王座で細沼は昨年、一昨年と2年連続MVPを受賞した
全日本王座で細沼は昨年、一昨年と2年連続MVPを受賞した

「試合前に食べるものについては知らなかったので、衝撃でした」。試合2日前には鉄を意識、前日から試合期間中は糖質や疲労をとる食品をとるようになった。

栄養以外の話でリラックスも

「細沼選手は、当時からすごく頑張っていました。元々、真面目で几帳面な性格。緊張しやすいタイプだから、栄養の話よりもメンタル的な話が多かったかもしれません」と山口さんは、笑顔で振り返る。

山口美佐さん(左)と談笑する細沼千紗
山口美佐さん(左)と談笑する細沼千紗

4年時は女子の主将となり、「相当なプレッシャーを抱えながら生活をしていた」という細沼。特に、学生テニスの団体戦日本一を決める戦い、10月の全日本王座の前は「神経を落ち着かせるため、カルシウムを多めに摂るよう指示、ハーブティーでリラックスするよう伝えました」(山口さん)。そのかいあって12連覇を達成できた(早大は今年も優勝して13連覇している)。

1年間に及ぶSNSのやり取りは、栄養以外の話も多かった。「お母さんの言うことは聞かないけど、先生の言うことは聞いていました(笑)」と、親に話せないことを相談することもあり、プロになった今もその関係は続いている。

早大時代に山口さん(左)のサポートを受けた細沼は、プロでの活躍を誓う
早大時代に山口さん(左)のサポートを受けた細沼は、プロでの活躍を誓う

グランドスラム出場を目指して

将来の目標は「グランドスラム出場」。8月の全米オープンを制した大坂なおみの活躍には多いに刺激を受けた。ただその頃から左膝の調子が良くなく、1カ月ほど靱帯損傷のため休養、24日の全日本選手権(大阪)から復帰する。膝に不安はあるものの、ダブルスは優勝、シングルスはベスト8を目指している。

大きな目と白い歯が印象的なルーキーに対し、山口さんは「今も真面目にしっかり取り組んでいる。ぜひグランドスラム出場を目指して頑張って欲しい」とエールを送った。

細沼千紗(ほそぬま・ちさ) 1996年3月26日、東京生まれ。富士見丘中-富士見丘高-早大。8月に韓国で行われたITFサーキットで早大の1年先輩、林恵里奈と組んでダブルス優勝。現在、JTAランキングで女子シングルス54位、女子ダブルス35位。右利き(両手バックハンド)。168センチ。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】