<ラグビーワールドカップ(W杯):日本30-10ロシア>◇1次リーグA組◇20日◇味の素スタジアム
日本代表プロップ稲垣啓太(29=パナソニック)が、ロシア戦勝利に大きく貢献した。
世界レベルの運動量で巨漢FW相手に後半15分まで、最前列でチームを献身的に支えた。相手スパイクが左目に入り、一時目が見えなくなるアクシデントに見舞われたが乗り越えた。1次リーグ敗退した15年大会を機に一層の肉体改造に励み、「動けるプロップ」として進化した。
稲垣は不動の背番号「1」を背負い、この日も黙々と役割を遂行した。186センチ、118キロ。体脂肪10%の肉体で体を張り続けた。開幕戦を勝利で飾ったが、表情はいつも通りで笑顔はなかった。「この日のために4年間多くの犠牲を払ってきた。ホーム開幕戦の重圧はあったが、まずは勝ててホッとした」。
世界基準の運動量を武器に、前半からロシアの大型FWを何度も倒し、いち早く起き上がってタックルを仕掛けた。この動作を反復して、前半20分過ぎから「7人ぐらい」の相手が、両手を膝についているのが見えて一気にギアチェンジ。後半途中に相手スパイクが左目に入り、一時的に目が見えなくなるアクシデントもあったが、「気合」で乗り越えてチームを支えた。
初出場の15年大会は、不完全燃焼で達成感は一切なかった。進化するため強みの「運動量」を追求。4年前は世界と戦うために無理やり体を大きくして121キロで臨んだが、動きにキレを感じなかった。そのためトレーニングの他、食事管理をこれまで以上に徹底した。今大会は3キロ減の118キロで臨んだ。体脂肪を減らし、筋力とスピードを上げた。「この3キロの差が大きい」と力説する。
母校新潟工高の恩師の樋口猛監督(47)から高校時代に「世界で通用するプロップになるために派手なプレーは捨てて脇役になれ」と口酸っぱく言われた。この言葉のおかげで「動けるプロップ」を志すことになった。高校までは走ることが苦手でマラソン大会では最下位の常連だったが、今では日本代表の走力テストでWTB並みの数値を記録するまで成長した。
この日は会場で樋口氏も愛弟子の勇姿を見届けた。稲垣は言う。「『日本代表が強い』ということを世界に示す。多くの方へのこれまでの感謝を8強という結果で恩返ししたい」。寡黙な名脇役の2度目の挑戦が始まった。【峯岸佑樹】
(2019年9月21日、ニッカンスポーツ・コム掲載)