<ラグビー流 Education(9)>

ラグビー元日本代表の今泉清氏(52)は前回の「目標の設定」というテーマを受けて、目標に到達するための手段、方法論に言及します。

達成に何が必要か

目標に到達し、目的を達成するため、何をすべきかを逆算して計画、準備をすることを今泉氏は「逆算の方程式」と呼ぶ。例えば、15年W杯で日本が南アフリカに勝った「世紀の番狂わせ」の時の話。E・ジョーンズ監督にとって、選手の身体能力のハンディが課題の1つだった。

ベスト8進出を決め、中島(右)と喜ぶジョセフ・ヘッドコーチ
ベスト8進出を決め、中島(右)と喜ぶジョセフ・ヘッドコーチ

今泉 走り負けないように「相手の3倍走る」と掲げて、1日5回のトレーニングで持久力を培った。強い相手を1人では止められないから、2人で止めるダブルタックルを指導。小柄な日本人の体格を生かし、(タックルなど)低いプレーを武器にすべく、レスリングの練習を導入した。

準備は練習メニューだけではなかった。

今泉 (試合日である)9月19日の過去10年の天候を調べ、晴天85%のデータから戦い方を準備した。世界トップ4(南ア)の初戦にはどんな主審が起用されるか統計し、その主審の傾向を調べ上げ、選手に伝えた。主審候補者を菅平合宿に招き、紅白戦を行った。実際にはその方が本番で主審を務めた。1年間かけて準備したんです。

15年W杯で日本は南アに勝ったが、8強入りはならなかった。今年のW杯では8強入りを実現した。

今泉 ジョセフHCは「ボール・イン・プレー(ボールを動かしている時間)40分」を目標に掲げた。世界トップの平均は33~34分です。前回の「相手の3倍走る」をより具体的、細分化したんです。

今泉氏はW杯で最も印象的だったプレーの1つに、8強入りを決めたスコットランド戦前半17分の松島のトライを挙げる。

今泉 左の福岡が走った時に本来は右にいる松島がサポートし、つながった。8月の米国戦では逆に右の松島を福岡がサポートし、福岡がトライ。準備されたプレーだった。

スコットランド戦の前半、トライを決める松島
スコットランド戦の前半、トライを決める松島

15年W杯前は173日の「地獄の合宿」があったとされるが、今回は250日に及び準備した。

今泉 仮に子どもが「You Tuberになりたい」と言ったら、それがいいとか悪いとかではなく、そのために何が必要か、今は何をすべきか尋ね、考えさせた方がいい。「You Tuber」を仕事、稼ぐ手段にするなら広告収入が必須。そのためには独自の作品、何より他人から必要とされる作品が求められます。自分が好きな動画を発信するだけで稼げる職業ではないですよね。

◆今泉清(いまいずみ・きよし)1967年(昭42)生まれ、大分市出身。6歳でラグビーを始め、大分舞鶴高から早大に進み、主にFBとしてプレースキックなどで大学選手権2回優勝、87年度日本選手権優勝に貢献。ニュージーランド留学後、サントリー入り。95年W杯日本代表、キャップ8。01年に引退した後は早大などの指導、日刊スポーツなどでの評論・解説、講演など幅広く活躍。

(2019年12月1日、ニッカンスポーツ・コム掲載)