今年1月の箱根駅伝で2年ぶり5度目の総合優勝を果たした青山学院大陸上競技部の原晋監督(53)が、オンラインで開かれた「みんなと食べる!大腸活テーブル」のランチ会に参加して、「食」に基づく青学大の強さの秘密を明らかにした。そこには、独特な発想を持つ原監督ならではのエキスがたっぷり詰まっていた。
にぎやかな青学大の食事風景、その理由
「大腸活大作戦」のキーワードが飛び出し、約250人の参加者とともに「いただきます!」の掛け声で始まったオンラインランチ会。長距離ブロックの神林勇太主将(4年)や青学大駅伝チームのトレーナーを務める中野ジェームズ修一フィジカルトレーナーも加わった中で、最初に紹介されたのは寮母を務める妻美穂さん手づくりの昼食メニューだった。白米と肉炒め、そしてタマネギとワカメ、麩、シソの葉入りの具だくさんみそ汁―。
美穂さん いろんな品目を取り入れたくて、本当は赤のトマトも入れたかったんですが、実は神林くんが嫌いなんです。寮の食事は残してはダメ。毎日朝晩に出るトマトを神林くんは鼻をつまみながら泣きながら食べているので、お昼も出してはかわいそうだと思って、やめておきました。
いきなりトマト嫌いを暴露された神林主将に、思わず笑みがこぼれる参加者たち。実は、こんな“笑い話”も青学大の強さの秘密だった。原監督が言う。
原監督 セロトニンという「幸せホルモン」が、腸から95%くらい出ていると聞きました。これを学生に分泌させるために、食事中はみんなでワイワイ話をしながら、楽しく食べるということを意識しています。いろんな科学的なエビデンスはありますが、1番は「食事を楽しむこと」を心がけさせるようにしているんです。
長野県内で行われた合宿の夕食写真も公開され、そこには甘いデザートもあった。意外に思われた。
原監督 長距離選手は体重を気にして甘い物を食べないのではと言われますが、そこまで管理、監督しません。食事を楽しむよう、バランスよく色とりどりな品目で提供しています。みんな、大きい物を目指してジャンケン大会で取り合いになっていましたよ。
楽しい食事が増やす噛む回数と唾液の量
長距離を走り切る上で必要な食事、栄養素にはもちろん気を配っている。その大前提は覆らない。
原監督 いくら、いいスポーツカーに乗ってもガソリンが入っていないと動かないのと一緒で、いくら体力が良くても栄養が入ってこないと動きません。日々コツコツ、良い物を食べていくことが原理原則です。
その上で楽しく食事をするのが青学大。この意識がどれほど大事か、中野トレーナーが補足した。
中野トレーナー ランナーは練習量が多く、消費カロリーが非常に高いので、どうすれば体重が落ちすぎないかが重要です。だから食べないといけないけど、ランナーは比較的やせていて食があまり太くない。そこがすごく難しい。食べることを命令にすると義務になり、トレーニングという観点になって(食事が)楽しくなくなってしまう。でも、楽しく食べる環境がついてくると食の量も自然と増える。特に長距離選手にとっては重要な食生活だと思います。
食事も、練習の一環となると苦痛に変わる。豪勢な食事が並べば一時はやわらぐかもしれないが、そんな食事が毎日続くはずもない。だから、みんなで和気あいあいと楽しく食べることが大切になってくるのだという。
効果は、それだけではない。
中野トレーナー 1人の食事では食卓を早く離れたいと思うので、どうしても早食いになる。噛む時間が短くなり、唾液の分泌量が減って消化吸収も悪くなります。でも、人と食べていると「話しながら噛む」を繰り返すので、咀嚼(そしゃく)の回数が増える。唾液の量が増えて、消化吸収も高まると言われています。
自由に食事の時間を設けていた当初は残すものが多かった選手たちも、みんなで食べることで大きく変化した。
質の良い睡眠を得るために、就寝時間の3時間前には食事を終えられる時間を設定するだけで、あとは自由。すると、原監督や美穂さんの肌感覚では速い選手たちほど、遅くまで食堂に残ってゆっくりご飯を食べているのだという。
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