<医療ライター・しんどうとも「メンタル回復法」(10)>
心をコントロールできないのが人間。ブッダはどうやって悟りを開いたのか。 「心と身体の正しい休め方」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者で禅僧、精神科・心療内科医の川野泰周さんは説く。
「執着を手放すため、さまざまな苦行をこれでもかというくらいやりぬいたけれど、手放すことが難しかったというのがブッダの修行体験でした」。
2500年前、6年間かけブッダはあらゆる苦行をやりつくしたが、執着を手放すことができなかった。
「では最後にどうしたか。菩提(ぼだい)樹の木の下で坐禅した。“こうならなきゃいけない”という感情を全部手放したんです。水は1杯しか飲んではいけないとか、あれは食べてはいけないとか、戒律でガチガチにしていったら生きづらく苦しくなっていったんです」
ならばと、最後はこともあろうに柔らかな叢(くさむら)の上で坐禅を静かに組んだ。
「涼しい場所で心地よく自分と向き合う瞑想(めいそう)に入った。そして村娘のスジャータがくれたおかゆをいただき、おいしくおなかを満たしたら、湧き上がってきたのが感謝の一念だったのです。人間存在として自らを大切にすること、そして他者に心から感謝すること。そこのことの大切さに気づき、あるがままに。ついに悟りが訪れたのです」
制限や厳しい戒律が悟りを導くのではなかった。
「悪いことをしたり人を傷つけたりしてはいけません。“中道(ちゅうどう)”といい、甘過ぎず厳し過ぎず。人間として自然な姿でいることそれが仏教の悟りの知恵でした」
(2020年10月26日、ニッカンスポーツ・コム掲載)