<医療ライター・しんどうとも「メンタル回復法」(21)>
言葉は、使い方次第で気持ちを変えることができる。しかし、言葉が「見つからない」ときは「何も言わない」ほうがいいかもしれない。禅僧で精神科・心療内科医の川野泰周さんはこう話す。
「実は、これはみとりをしている医療者たちにすごく大切な考え方なのですが、自分が代わってあげることはできないとしても、苦しんでいる人に何をしてあげられるのか、どう支えてあげられるか。言葉や行動で示すことは極めて難しい状況が多くあります。しかし、そこにただ、同じ人間として居続けるということを通して、ひとりではなく、心のつながったいろいろな人が共にある、共にそこにいるということを伝えることができます。それがどれだけその人の心の支えになるか。苦しい経験の中を生き抜いてきた人ほど分かるのです」
大切な家族や友人を亡くした相手にかける言葉がないときもある。
「“ごめんなさい、何も言葉が出てこないんです”と、あるがままの心を伝えてもいいと思います。何よりもただそこにいるということが大きな力になるのです。これは相手にだけでなく、支えている本人に大きな勇気とエネルギーをもたらしてくれる。“私にもできることがある”という思いが力になるのです」
川野さんによれば、言葉にならない時は「何も言わない」という選択肢もあってよいという。ありのままの自分を伝えることは、人との心地よい距離のコツともいえそうだ。
(2020年11月18日、ニッカンスポーツ・コム掲載)