活字を読み、考える-。マリナーズ菊池雄星投手(29)が、読書の良さを説いた。「菊池雄星 文化プロジェクト」と題された岩手読書感想文コンクール(主催・岩手日報社、日報岩手書店会)の表彰式に、特別審査員としてオンラインで参加。小学生から高校生までの5部門、81作品の感想文を読み「特別賞」と「雄星文庫賞」を選出した。活字離れが進む中、読み書きの大切さを語った。

岩手読書感想文コンクールの表彰式にオンラインで参加したマリナーズ菊池
岩手読書感想文コンクールの表彰式にオンラインで参加したマリナーズ菊池

時代の潮流にとらわれない、菊池の生き方があった。年間で約200冊を読むほどの読書家。趣味で生活の一部にもなっている読書について、「本をめくるという作業がすごく好き。本だと分厚いじゃないですか。小説が大好きなので、本で読んだ方が、達成感を含めて記憶に残るという感じはあります」と語った。

電子タブレットなどで読むこともあるが、できるだけ1冊の本を手に取る。理由は「ただのアナログっていうことですね。スマホの(難しい)使い方とか分からないですから」と笑う。就寝前、本の厚みを手で感じながら、活字を読むことが至福のひとときだ。「紙に書くとか紙をめくるとか、小さい頃からそういう本の読み方をしてきて、昔からそっちに慣れているので、紙の方が好き」。

10年2月、春季キャンプの休日、海岸の流木に座り読書を楽しむ雄星
10年2月、春季キャンプの休日、海岸の流木に座り読書を楽しむ雄星

今回はコンクールの審査員として感想文を読む側だったが、書くこともルーティンの1つ。「メモを取ることをすごく大事にして、思いついたこと、感じ取ったことを忘れないように。それが野球にも生かされるというか、蓄積が後々、役に立つこともあります」と本業でも活字で記録に残すことを大切にしている。

SNSやYouTubeで情報を得られる今の時代だからこそ、思うこともある。「1冊読んで、自分自身に置き換えてみたりとか、これは必要、これは違うというのを含め、自分で考えることが大事なのかな」。解釈することの必要性も説いた。【斎藤庸裕】

○…表彰式では一次審査を通過した81作品の中から5作品を「特別賞」として選出し、サイン入りユニホームを贈呈した。また、応募数の多さや取り組みが優れていたとして表彰される「雄星文庫賞」は、小中高から各1校ずつ選出。記念の盾を贈り、今後は菊池が薦める本が学校側に届けられる予定だ。

◆菊池と読書 ジャンルは幅広い。野球本、トレーニング論、栄養学などプレーにかかわるもの。将棋の羽生九段、ソフトバンク孫会長、ユニクロの柳井会長など著名人に関する本。連続誘拐殺人事件に迫った「殺人犯はそこにいる」といったノンフィクション。歴史小説も好む。「野球に役立てようと思って読んでいません。でも、役立っていると思う。歴史上の人物ならどう考えるのかなと」。

読書習慣は子どもの頃から。4人兄弟で「服はお下がりでしたけど、本だけは好きな時に買ってくれました」。投球フォームに苦しんだ18年には、藤沢周平の代表作「蝉しぐれ」に感銘。「人間は後悔するように出来ておる」というせりふに、ハッとさせられた。「後悔はしたくない。だが、絶対するもの。ならば、後悔の質を上げていけばいい」と優勝へ突き進んだ。

(2020年12月13日、ニッカンスポーツ・コム掲載)