柔道男子66キロ級の阿部一二三(23=パーク24)と妹で女子52キロ級の詩(21=日体大)が、同日に五輪金メダルの快挙を成し遂げた。性別の異なるきょうだいが、五輪のメダルを取るのは日本初。詩は決勝でライバルのブシャール(フランス)に延長の末、一本勝ち。52キロ級で日本初の金メダルを獲得した。一二三は決勝でマルグベラシビリ(ジョージア)に優勢勝ち。66キロ級では08年北京五輪以来となる3大会ぶりの金メダルとなった。

柔道から離れた「きょうだい時間」大切に

阿部きょうだいのそばには一番の良き理解者がいる。両親とともに陰で支え続ける長男の勇一朗さん(25)だ。競技者とは別の国家公務員の道に進み、「五輪金メダル」という夢をかなえるために、ひた向きに努力を重ねる2人の柔道家をサポートしてきた。

取材に応じる阿部勇一朗さん(撮影・峯岸佑樹)
取材に応じる阿部勇一朗さん(撮影・峯岸佑樹)

幼少期の頃は、2歳下の一二三と常に一緒だった。ともに兵庫少年こだま会に通い、消防士の父浩二さん(51)が考案した体幹トレーニングに励んだ。地元ではきょうだいの中で「最も柔道センスがある」と評判で、関西地区で表彰台に上がるほどの実力だった。しかし「強くなりたい」という向上心が生まれず、習い事の1つという感覚だった。「楽しかったけど、2人のように世界一を目指すという目標はなかった」。小6で柔道をやめ、中学と高校では水泳部に所属した。

進路に悩んでいた高校2年の頃、中学生の全国大会で2連覇した弟の活躍に刺激を受けた。「自分もしっかりしないとダメだ」と考え、国家公務員になることを決意した。高校時代は3人の生活リズムが異なる中で、「きょうだい時間」を大切にした。弟との決まりごとは毎晩のコンビニ。午後9時ごろに、自宅から徒歩3分の店舗まで歩きながらたわいもない話をするのが習慣だった。お菓子やカップ麺などを購入して、ファッションやゲームの話題で盛り上がった。4歳下の詩にはPCの機械操作などを教え、私生活の面でアドバイスを送った。下の2人にとっても、柔道から離れた癒やしのひとときだった。

夢を見せてくれてありがとう

18年世界選手権できょうだい優勝を果たし「雲の上の存在になった」と笑うが、2人を理解する優しい兄であることは変わらない。今年1月には柔道着姿の「必勝ミニだるま」を購入。「まだまだいける。もっともっとやれる。見せてやれ! おのれの底力!」。付属の紙にはこのような奮起を促す文字が書かれ「2人が金メダルを取れますように」と祈願し、左目を入れて25日の決戦を迎えた。家族全員から「勇」と呼ばれる阿部家の長男。自身を現実主義者と表現するが、何げない会話で2人に安心感を与え、24日夜には専属栄養士が準備した食事に「夢の舞台で駆け上がっていくだけだ」とメモを添えて背中を押した。

男子66キロ級で優勝した阿部一(左)と女子52キロ級で優勝した阿部詩は笑顔で記念撮影に収まる(撮影・河野匠)
男子66キロ級で優勝した阿部一(左)と女子52キロ級で優勝した阿部詩は笑顔で記念撮影に収まる(撮影・河野匠)

「自分は至って普通のお兄ちゃん。一二三も詩も五輪金メダルという非現実的なことを実現して本当にすごい。全ては本人たちの努力のたまものだし、夢を見せてくれてありがとう」

自宅で大勝負を見届けた25歳の長男は、2人に感謝の気持ちを伝えた。【峯岸佑樹】

(2021年7月26日、ニッカンスポーツ・コム掲載)

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