2021年夏の甲子園は、コロナ禍での開催に、長雨で異例の7度の順延。選手たちは外出も許されず、ホテルの中で長期間過ごすことになった。唯一の楽しみといえば食事。大会期間中は、体作りの時期を終え、体調をいかに維持し調整するかが目的となる。そこで今大会、16強進出を果たした二松学舎大付(東東京)と、日大山形(山形)の甲子園期間中の宿舎での食事を紹介する。
長引く大会、宿舎の配慮で乗り切った
選手の食生活も、例年とは違うものだった。いつもなら、連日30℃を超える猛暑で、選手たちの食欲も落ちていた。しかし今年は、長雨のせいで涼しい夏だったため、食欲が落ちるようなことはなかったという。3年ぶり4度目の出場を果たした二松学舎大付の市原勝人監督(56)は「大会中の食事は、“我慢して食べろ”という感じではなかったですね」と振り返る。
練習も、高野連から割り当てられる球場での2時間のみ。「練習量が落ちるので、今年は逆に体が動かなくならないよう気を配りました」。割り当て時間以外に、グラウンドや室内練習場を手配し練習。「普段なら、猛暑の中、長時間練習させるとバテていました。でも、今年はご飯をたくさん食べ、涼しい環境の中で練習量も増やせた。コンディションは調整しやすかった」と環境は充実していたようだ。
二松学舎大付の選手たちの胃袋を支えたのは、51年センバツから甲子園出場チームを受け入れている夕立荘。オーナーの島田昭一さん(79)は「今年の二松学舎大付さんは、よく食べてくれましたね」と笑顔を見せた。70年もの間、選手を受け入れているだけに、食事に関してはお手のもの。市原監督も「試合が終わった直後は、選手たちは興奮状態で食欲がない。そんな時はそうめんとおにぎりなど、胃に優しいものを出してくれます。ひと息ついてリラックスしてくると、おなかがすいてくる。そうすると、お肉のおかずたっぷりの食欲をそそるものを出してくれる。いつもいいタイミングで出していただけます」と感心しきりだ。
夕立荘は、バイキング形式ではなく個人食で出してくれるのも最近では珍しい。食事を担当している島田綾子さんは「ご飯と汁物の他におかずは5品。食後には果物を用意。お野菜にお魚、お肉とバランス良くお出ししています」と、豪華なメニューが並ぶ。慣れないホテル生活でストレスを感じないよう、肉中心のボリューム満点なメニューだけでなく、ヘルシーなメニューの日も。時には、コロナ感染対策を十分とった上で、すき焼きやしゃぶしゃぶも選手たちには大好評だった。
市原監督は「大会が長引き、遠くから来ているチームにとっては、緊張感を維持するのが大変な大会でしたが、こうして宿舎の支えもあり、無事に終えることができました」と、感謝した。
バラエティーに富んだ食事や差し入れで気分転換
大阪市内の大阪キャッスルホテルに宿泊した日大山形は、各自、手袋をつけコロナ感染対策をした上で、バイキングが中心の食事だった。園田剛樹部長は「いつも食べきれないくらいの量を出してくださったので、充実した食生活でした」と話した。洋食中心の日から、中華料理の日もあり。バラエティーに富んだメニューで選手たちを支えた。
大阪キャッスルホテルの担当者は「普通のお客様と違い、なるべくボリュームをつけ野菜もしっかりとっていただく。また、飽きないようにいろいろな種類の食事をお出ししました」と長期滞在の食事にも配慮した。
チームスタッフも、選手たちを食事で支えた。いつもなら、自由時間に館内のコンビニや近くへの買い物も許されていたが、今年はコロナ禍で外出は禁止に。長期滞在でストレスがたまりそうな日々に「少しでも大阪を感じてもらいたい」と園田部長をはじめチームスタッフが、お好み焼き、たこ焼き。また、シュークリーム、カステラなどの甘いものを選手たちへ差し入れ。「昨年、甲子園が中止になったこともあり、選手たちは開催にあたり、ある程度、行動に制限がかかることを理解した上で生活していたようです」。選手はそれぞれ1人部屋で過ごし、練習以外で顔を合わせるのは食事の時間のみ。「だからこそ、食事ではストレスをかけさせず、うまく気分転換をさせてあげたかった」。細かな配慮が選手を支えた。
二松学舎大付、日大山形。心身ともにベストなコンディションで試合に臨み、つかんだ甲子園ベスト16。例年とは違う大会だったからこそ、選手、チームスタッフ、そしてホテル関係者。一丸となって乗り越えた大会だった。【保坂淑子】
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