<体力の正体は筋肉/第5章:下半身と体幹の筋肉をきたえなさい(7)>

全身の骨格筋がきたえられるスイミング

スイミングを、日常的にされている人も多いでしょう。

特にクロールでは、腕のかき(ストローク)によって上半身の上腕三頭筋や広背筋が、脚の蹴り(キック)によって大腿四頭筋、腸腰筋、大殿筋といった下半身の筋肉が使われ、全身の骨格筋がきたえられる有酸素運動です(下図)。

水泳で使われる筋肉の図

さらにスイミングの最大の特徴は、浮力(浮かす力)、抵抗(動きを妨げるように働く力)、水圧(水の重さによる圧力)、熱伝導率(空気の約23倍といわれる熱の伝わりやすさ)といった水の物理的性質の影響を強く受け、陸上でのトレーニングにはない効果が得られる点です。

浮力があると体を支える力が小さくなるために、全身の関節への負担が軽くなり、関節の可動域が広がって体をより大きく動かすことができるようになります。

水の抵抗や水圧を利用すればレジスタンス運動の効果が得られますし、水のなかで呼吸をすれば呼吸器系の筋肉の働きが活発になり、熱伝導率の高い水に全身が浸かれば、体温調節機能が刺激されます。

スイミングを安全に楽しむには

浮力によって水のなかでは足腰の負担が軽くなるために、ついつい無理をしがちなのがスイミングでもあります。

では、どのくらいの強さで行うのが安全なのか、とても気になるところです。

その1つとして、心拍数(1分間に心臓が拍動する回数、脈拍)を測って、自分にマッチした強度を越えていないかどうかを確認する方法があります。

病院で看護師さんが脈をとるときのように、手のひらを上に向けてその手首の親指側に、もう片方の手の人さし指・中指・薬指をそろえて当て、時計を見ながら1分間カウントすれば、心拍数が分かります(20秒カウントして、それを3倍する方法もあります)。

最近では、手首に装着できるブレスレットタイプの心拍計も市販され、専用アプリをインストールすれば、スマートフォンでも心拍数を計れるようになりました。

自分に合った運動強度(=目標心拍数)は、次の計算式で簡単に出ます。

運動強度=目標心拍数=最大心拍数×目標運動強度の割合

最大心拍数は、最も速くなったときの心臓の拍動数で、成人の場合は目安の値として、「220-現在の年齢」の式で求められます。

目標運動強度の割合は、全力で行ったときの強度を100%(最大努力)として、どのくらいの強度にするかを自分で決めます。強度が全力の100%でなくても、中等度の50~60%から体力アップのための80%程度でも、安全なかたちで効果につなげられますから、無理をする必要はありません。

どのくらいが50%で、どのくらいが80%の強度なのかは、もちろん個人差がありますので、100%のときの感覚と比べて、「だいたいこのくらいのペースかな」とイメージするしかありません。

たとえば、あなたが50歳の成人男性だとしたら、最大心拍数は170(220-50)です。さらに、全力ではなくその80%の強度で泳ぐとしたときの計算上の最大心拍数は、

170×0・8=136

となり、あなたにとって体力アップのために泳ぐ強度を心拍数で示すと、「136拍/分」であることが分かりました。

そこで、おそらく全力の80%ぐらいではないかと思われる力で実際に泳いだあとに心拍数を計って、この「136拍/分」に近い値でしたら、あなたは自分の目指したペースで安全に泳げた、ということになります。

運動の強度と心拍数の関係の表

運動強度と心拍数との関係は、上の表で分かります。強度の感じ方を「きつい~かなりきつい」「ややきつい」「楽である」の3つに分け、年代別に1分間当たりの心拍数の目安を示したものです。強度がオーバーしないように、ぜひこの表を活用してください。

なお、なんらかの生活習慣病と診断された方は、「きつい~かなりきつい」強度での運動は絶対に避けましょう。危険です。

この方法は、ほかのトレーニングでも生かせますが、スイミングの場合は水中での心拍数が陸上よりはやや少なくなるので、計算した値よりも10~15拍少ない運動強度を基準にします。

心拍数を計るのが面倒だという人は、泳ぐ時間を目安にするといいでしょう。スイミングをはじめたばかりの人は週3回、1回あたり5~10分からスタートし、徐々に時間を延長していくのが安全です。

水中では最高血圧が上昇するので、当日体調がすぐれなかったら、けっして無理をせずに中止しましょう。

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