「健康日本21」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。21世紀において、日本に住む一人ひとりの健康を実現するための国民健康づくり運動として、健康寿命の延伸などを実現するために国(厚生労働省)が2000年(平成12年)から行っているものです。
2013年からの第二次を経て、2024年4月からは第三次が始まり、2035年度末(2036年3月末)までの12年間、「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」をビジョンに掲げ、取り組みます。「誰1人取り残さない健康づくり(Inclusion)」と「より実効性をもつ取組の推進(Implementation)」に重点を置き、国民の健康づくりを社会全体で、総合的・計画的に推進するものとしています。
「栄養・食生活」「身体活動・運動」及び「睡眠」の3分野においては、次のような目標が設定されています。
●健康日本21(第三次)の主な目標
上の図の中で「新」のマークがついているものが、新しく追加された目標です。
・睡眠時間が十分に確保できている者の増加
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)の死亡率の減少
・「健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブ」の増進
・健康経営の推進
・骨粗鬆(しょう)症検診受診率の向上
世界で死亡率3位の慢性閉塞性肺疾患
今回は、ここで掲げられた「COPD(慢性閉塞性肺疾患)と栄養」について取り挙げます。
COPD(慢性閉塞性肺疾患、chronic obstructive pulmonary disease)というのは従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。WHOによると、2019年にCOPDで亡くなった人は世界に323万人おり(死亡原因3位)、厚生労働省の統計によると、2021年のCOPDによる死亡者数は1万6000人を超えました。健康21第三次では、人口10万人あたり13.3人のCOPD死亡率を10.0人にまで減少させるという目標を掲げています。
主な原因は喫煙。日本呼吸器学会によると、40歳以上の人口の8.6%、約530万人の患者が存在すると推定されており、大多数が未診断、未治療の状態であると考えられています。
タバコの煙を吸入することで、肺の中の気管支に炎症がおきてせきやたんが出たり、気管支が細くなることによって空気の流れが低下。また、気管支が枝分かれした奥にあるぶどうの房状の小さな袋である肺胞(はいほう)が破壊されて、肺気腫という状態になると、酸素の取り込みや二酸化炭素を排出する機能が低下します。COPDではこれらの変化が併存していると考えられており、日本呼吸器学会では「喫煙者の15~20%がCOPDを発症」「治療によっても元に戻ることはありません」と説明しています。
感染症罹患や動脈硬化の原因にも
COPDになると、酸素が不足するため呼吸数が増え、消費エネルギーが増加します。その結果、筋肉量の低下、栄養障害、骨粗鬆症などを合併し、感染症にも罹りやすくなります。また喫煙は血圧を上昇させ、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の低下やLDLコレステロールの酸化を促進するので、動脈硬化の原因にもなります。
職場や飲食店など全面禁煙の場所も増えており、喫煙率は男女とも低下傾向ですが、やめたくてもやめられないという人もいるのではないかと思います。そういった方は、これを機に禁煙に挑戦してみましょう。禁煙外来もありますし、オンライン診療をしている病院もあります。
次回コラムでは、健康日本21(第三次)の新目標、骨粗鬆症検診受診率の向上について紹介します。
なお、健康日本21(第二次)最終評価告書概要、目標に対して現状を知りたい人は、下記を参考にしてください。
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000999445.pdf