「早食いは太りやすい」と言われますが、「ながら食べ」も太りやすく、消化吸収を悪化させ、代謝を低下させます。五感を使っていないということも1つの理由だと考えます。

富山大学のマウスを使った実験では、空腹時に食べ物の匂いをかいでから食事をとると代謝が良くなり、脂肪を燃焼したり、血糖値を上げにくくしたりする可能性があると報告されています。香りには食欲を抑えたり、逆に促進したりするものがあります。

香りで食欲をコントロール

食欲を抑える香り

食欲を抑える香りとして、柑橘系果物の香りの「リモネン」やバニラがあります。大脳へ送られると、交感神経にある満腹中枢が刺激されて満腹感が得られるのです。ペパーミントの香りはリフレッシュ効果があり、食欲を抑えると言われています。

食欲を促進する香り

一方、食欲を増進する香りとしてシナモンがあり、焼き菓子やデザート類によく利用されます。チョコレートの香りは快楽を感じさせる物質を脳内で分泌させ、食欲を促進。特に甘いものへの欲求を高める効果があります。

ベーコンの香りは特有のうま味と脂っこさが脳に強い刺激を与えます。パンや焼きたての香りはメイラード反応によるものです。メイラード反応は、食品の調理過程で起こる化学反応の1つで、食材が加熱されることでアミノ酸と糖が反応し、褐色の色素(メラノイジン)や多様な香り成分が生成される現象です。香りによる食欲増進作用だけでなく、褐色の香ばしい見た目も食欲をそそります。

食欲を抑えたいとき、沸かせたいときには香りをうまく使いましょう。

咀嚼の効果

また、早食いやながら食べの良くない点として、よく咀嚼(そしゃく)せず飲み込んでしまうことも関係しています。咀嚼の効果を5点挙げます。

エネルギー消費の増加

咀嚼そのものがエネルギーを消費します。特に、硬い食べ物や繊維の多い食品を噛む時には、より多くのエネルギーが消費されます。また、顔まわりだけでなく脳への血流も良くなることで代謝を高めます。

消化酵素の分泌促進

咀嚼によって唾液が分泌されます。唾液には消化酵素(アミラーゼ)が含まれており、食物中のデンプンを分解し始めます。これにより、胃腸での消化がスムーズになり、栄養素の吸収が良くなることで、代謝が促進されます。

消化管の活動の刺激

咀嚼によって脳に消化の準備を知らせる信号が送られ、胃や腸の動きが活発になります。これにより、エネルギー消費が増加します。

満腹感の促進

よく噛むことで、食べ物の摂取速度が遅くなります。これは、満腹感を感じる信号が脳に届くまでの時間を稼ぐことになります。早く満腹感を感じることで、過食を防ぎます。

ホルモンの調節

咀嚼により食欲を抑えるホルモンであるレプチンや消化を促進するホルモンであるグレリンの分泌が調節されることで、食事後のエネルギー代謝が効率良く行われるようになります。

皿の大きさも…視覚も重要

その他、視覚も重要です。きれいに盛り付けられた食事は食欲をそそります。大きな皿に盛られた少量の料理と、小さな皿に盛られた同量の料理では、小さな皿の方が満腹感を得やすいこともわかっています。食欲がない時は、大きな皿にきれいに盛り付ける、食欲を抑えたい時は小さな皿に盛り付けると良いでしょう。

このように五感を使うことで、食欲を調整することができます。体調に合わせて工夫してみてください。

管理栄養士・今井久美