今秋ドラフトの超目玉は、プロ顔負けの食事管理を行っていた。創価大の最速156キロ右腕・田中正義投手(3年=創価)は、自身の体重(90キロ)から1日に必要なタンパク質、炭水化物の量を算出。満たすメニューを考えながら食事を取っている。現在の寮生活の中にも「正義流」の工夫があった。

実家から届いた食事を披露する創価大の田中正義
実家から届いた食事を披露する創価大の田中正義

 田中は、食べ盛りの大学生とは思えない食生活を送っていた。「食事は栄養素だと思っている。まだ経験は浅いけど、栄養に関してはプロにも負けてないと思う」。仲間や友人と外食をしても、揚げ物には手をつけない。酒も飲まない。1月下旬のある日の昼食にも、意識の高さが表れた。

 テーブルに並んだのは、ごはん1合、サバの照り焼き、キムチ納豆、目玉焼き、ブロッコリー。見るからに健康的だ。キムチ納豆に箸を伸ばす前に、メニューに入れた理由を明かした。

 「発酵食品は腸内環境を良くする役目がある。2つ合わせたら最強なんです」。ブロッコリーには「ドレッシングの代わり」と、えごま油をかけた。えごまに多く含まれるαリノレン酸は体に不可欠な必須脂肪酸で、体内で固まらないため脂肪になりにくいといわれている。おかずや副菜に、体にプラスにするための工夫が詰まっていた。

独学で健康管理「食事は栄養素」

 始まりはケガだった。高1の秋から右肩痛に悩まされ、投げられなくなった。「何軒も病院に行って、いろんなことを言われて不安になった。自分の体を知りたくなって、少しずつ勉強した」。本などを読み、独学で栄養を考えた食事を始めた。体質は変わり、筋肉が付いてケガも減った。

 大学に入ると球速も上がった。2年春の大学選手権で154キロを出してブレーク。昨春からは「ワンランク上に行きたい」と研究にも熱が入った。6月にはNPB選抜から7者連続を含む4回8奪三振。秋のリーグ戦は6試合46イニングで防御率0・00と異次元の投球を見せた。「食事を考えてなかったら、今の自分はない」。成果は誰よりも実感している。

母の手料理も支え、慣れ親しんだ味で

 ストレスは皆無だ。根底に「過敏になりすぎないこと」がある。1日2度食べることもあるという納豆は「ひきわり」。「実は、納豆はあまり好きじゃないんです(笑い)。粒が小さいほうが食べやすいから」。徹底した管理の中に「緩さ」もあるのが正義流だ。

 母鈴香さんの手料理も支えになっている。この日も横浜市内の実家から冷凍されたおかずが届いた。「必要な栄養素が摂取できれば3食同じでもいいけど、おいしいものを食べたいじゃないですか。やっぱり慣れ親しんだ味がいい」と、好みのメニューや味付けを頼んでいる。

 寮で提供される食事だけでは足りない栄養をカバーするための出前や外食は減り、経済的なメリットも大きかった。「練習の質、マウンドでの自信、すべてが変わった。これからもっと勉強したい」。大学NO・1右腕は、どこまでも貪欲だ。【鹿野雄太】

揚げ物、飲酒はNO 最も理想的

<管理栄養士・大前恵氏(株式会社明治)の解説>
 5人の選手の中で最も理想的な食生活だと思います。揚げ物に手をつけなかったり、飲酒をしなかったりというのは、特に評価できます。いいことを取り入れて、自分に必要ないと思ったことを一切やらないというのは私が見てきた一流選手に共通するセオリーです。

 それを続けられるかどうかがまた明暗を分けます。レッドソックスの上原選手ら、息の長い選手は継続する力を持っています。田中選手も大学のこの時期から、それをやり続けられるというのは、目指している場所が違うからでしょう。本当にいい選手なのだなと思います。

 気になるのは、乳製品はどのように取っているのだろうかということです。カルシウムは他の物で取るとしたら、小魚を食べ続けたり、桜エビを振りかけたりと、至難の業です。上手に摂取していれば完璧だと思います。

(2016年2月20日付日刊スポーツ紙面掲載)