朝、晩と調理師2人で切り盛りする60席ほどの小さな寮食堂。中に入るとトレー受け取り口の上に、ひときわ目立つ貼り紙があった。
「小鉢が選べます」。
この日のメーンメニューは牛肉とレンコンの時雨煮で、副菜としてチンゲンサイの炒め物、もずく酢がつき、汁物は長ネギと豆腐の入ったみそ汁だった。これに加え用意されていたのが、2種類の小鉢だ。鉄分を取りたい選手は高野豆腐の玉子煮、ビタミンを取りたい選手はフルーツといった形で、選べるようになっているという。
陸上の単独寮で専属の栄養士
新築アパートのような外観の中大・東豊田寮(日野市)は、2010年から使われている陸上競技部の単独寮。駅伝シーズンに長距離選手への取材で取り上げられることが多いが、短距離、跳躍、投てきなど、さまざまな専門種目の選手が生活を送っている。幅広い種目の選手が生活を送るため、自炊用のキッチンが設けられているほか、専属の栄養士がつき、万全のサポート体制となっている。
選べる小鉢も、栄養面でのサポートの一環。不足しがちな栄養素をそれぞれ選手が考えて取れるようにする寮食堂ならではの取り組みだ。
「毎日おいしく頂いています。基本的には栄養バランスを考えて(小鉢を)選んでいます」と話すのは主将を務める短距離選手の諏訪達郎(経済学部4年)。自分に合った品を判断することで、食の面から競技について自主的に考える力を養ってきた。とはいえ、常にバランスばかり見ているわけではないようだ。「好みの物があった時などはそっちの小鉢を取ります」と本音を語ってくれた。ただ体のためになるだけでなく、自分で選ぶ楽しさがある。
野菜中心でおいしく、バランス良く
「栄養を体に補給していただかなくてはいけない。バランス的には、野菜を中心に取っていただくことを意識しています」と食品衛生責任者を務める吉岡八寿子さん。バランス良く栄養を取れるよう、レシピには工夫を凝らす。
この日のメーンの牛肉とレンコンの時雨煮は、一見、肉と根菜のシンプルな組み合わせだが、ここにも工夫あり。同じ皿に揚さつま芋とキヌサヤのピーナツ和えが付け合わせとして添えられ、一皿で肉のタンパク質だけでなく、緑黄色野菜の豊富な栄養を取れるようになっている。メーンの付け合わせもカウントすると毎日7~8品が提供されている。
吉岡さんは「大事なのは食べていただくということ。バランスよく食べないと体にも影響が出てしまうので」とやさしい笑顔で語る。今回紹介したメニューに限らず、野菜中心がふんだんに使われた構成でも、好き嫌いや食べ残しは少ないという。
それでも、より良い食事の提供のため、残食の確認作業は欠かさない。吉岡さんたちのたゆまぬ努力もあり、人気メニューの鶏の唐揚げをはじめ、東豊田寮の食事は選手たちにおいしいと好評だ。栄養面で優れているだけではなくおいしく食べてもらいたい、そんな真心のこもったレシピが、選手たちを支えている。【中大スポーツ新聞部】
さまざまな食材が使われており、一皿でバランスの良い料理となっています。レンコンは根菜類で糖質が多く、エネルギー源にもなり、疲労回復に役立つビタミンCも多く含まれています。ショウガには代謝促進作用があるので、一緒に食べると効果的です。