<空手元世界女王・伊藤観世さんインタビュー(1)>
空手の型と組手の両方で世界チャンピオンとなった伊藤観世(みるよ)さん(30)は、食が細かった子供時代、大きな選手と戦うためにはバランスよくたくさん食べることも稽古のうちだと教えられた。現在は米ロサンゼルスに住む女性空手家の、これまでの食生活について話を聞いた。【取材・千歳香奈子】
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家の横で父が道場を営んでおり、母がいつも料理を作ってくれていましたので、米国に来るまでは特に食事で困ることはありませんでした。
子供のころは食が細く、体も小さかったので、「食べないとダメだよ」と言われて育ちました。当時は空手をやっている女子は少なかったので、中学生以上が「一般女子」というくくりとなり、大人と一緒に試合をしなければいけませんでした。13歳の時の体重は30キロありませんでした。同じカテゴリーの一番軽い人でも40キロあったので、とにかく食べて体重を増やすようにと指導されました。当時は、お相撲さんと一緒で、食べるのも稽古のうちだと言われていました。
体重30キロじゃ大人に勝てない
大人の人たちと一緒に試合に出るようになり、食べて大きくならないと殺されちゃう!と感じていました。軽いと動き回ることはできますが、やはりパワー不足は否めません。中学生になってからは、稽古の量が増えて運動量が上がったので、とにかく好き嫌いなく、なんでも食べるようにしていました。
稽古と稽古の間に食事をしたり、一度にたくさん食べられないので、細かくたくさん食べるようにして、時間がないとコンビニでゼリーだけでも買って食べたり、バナナを持ち歩いたりと、ちょこちょこ何かを食べていました。
女子の軽量級が55キロ以下で、延長になって体重判定に持ち込めば軽い方が勝ちます。でもそこに行く前に勝つ方がいいので、体重を増やして試合に臨みました。単に増やしても、動けないといけないので、そこは注意が必要です。
タンパク質はやはり重要ですね。練習後に牛乳にプロテインを混ぜて飲まされたりもしました。強い体を作るために、カルシウムも大切だと言われ、煮干しを食べたり、牛乳を飲んだりもしていました。米国に来てからは、牛乳でカルシウムは取れないと言われましたが、子供の時は牛乳を良く飲んでいました。意識の問題だと思いますが、食べる量が増えると運動量もそれに比例して増えて、そうするとまた食べる量も増えてきました。
稽古が終わったらすぐ食事
あとは、なるべく稽古が終わってすぐに食事をするようにしていました。稽古の前にも食べていたのですが、食べてすぐに動くと胃下垂になると言われたので、少し休んでから稽古するようにしていました。白米は大好きで、焼き肉店に行っても大盛をおかわりしていました。試合の時はおにぎりを握ってもらって持っていったりして、炭水化物はエネルギー源としてよく食べていました。
たくさん食べることももちろんですが、バランスにも気を付けるように父からは言われていました。肉だけでなく野菜も一緒に食べるようにしたり、バランスにもこだわっています。この栄養が体に必要だからとそればかり食べていても、体に吸収されにくく、他の物も一緒に食べた方がより吸収しやすくなると父から教わりました。でも、なかなか1人になると、意識をしていても実践するのは難しいですね。今振り返ると、何気なく毎日食べていたものが体に必要なものだったんだなと感じています。これだけ取って、これは取らないというのはあまり好きではありません。
1985年7月20日、奈良県天理市出身。95年、小学校4年生の時に極真会館に入門。19歳で第5回世界大会型の部に初出場し、世界一の栄光を獲得。2年後の07年に出場した第6回世界大会では、組手にもエントリーして初優勝し、日本人として史上2人目の世界チャンピンとなった。型の部では2008年、2009年、2012年にも世界大会で優勝し、4度の王者に輝いている。2010年に学生ビザを取得し、ロサンゼルスに留学。語学学校に通いながら、極真会館ロサンゼルス支部に所属。2012年に現役を引退し、現在はインストラクターとして若手育成に力を注いでいる。