<空手元世界女王・伊藤観世さんインタビュー(2)>

 空手の型と組手の両方で世界チャンピオンとなった伊藤観世(みるよ)さん(30)は2010年に米ロサンゼルスに留学し、1人暮らしを経験した。学校と稽古で忙しく、食生活の乱れから体調も悪くなった。当たり前に食べていた普段の食事の大切さを実感したという。【取材・千歳香奈子】

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 ロサンゼルスで1人暮らしを始めたことが食事を見直すきっかけとなりました。自分では気をつけていたつもりでも、自然と食生活が乱れていたようで、体調がすぐれない日が続き、練習でたくさん動いた後に貧血のような感じになることもありました。試合の時にゼイゼイとなったりもして、精神的なこともあったのかもしれませんが、食事も原因だったのではないかと思っています。

空手元世界女王・伊藤観世さんの型の演技
空手元世界女王・伊藤観世さんの型の演技

20歳を過ぎて気づいた当たり前の重要性

 栄養や食事が大切というのは常に頭のどこかにはありましたが、環境が変わった中で、どれだけ自分でマネージメントして自分自身をコントロールするかというのは、とても難しいと感じています。

 1人暮らしを始めた米国では煮干しなどの食材がなかなか手に入らないので、日系スーパーに行き、代わりにシラスを買ってみたりとか多少は意識していました。それでも体調がすぐれないことが多く、日本にいた時にはなかった貧血が頻繁に続いたりしました。自分ではそこまでひ弱だとは思っていなかったので、食事の大切さは身に染みて感じました。つらかったですね。

 日本に一時帰国して血液年齢などを測定してもらえる栄養に関するイベントに行った時、ヒジキを食べたらいいとアドバイスされました。ヒジキから鉄分が取れるからと。それからは、ヒジキを探してよく食べるようになりました。

 女の子は生理もありますし、激しい運動をしていると鉄不足になることもあるようです。日本にいた時は、母がヒジキの煮物やホウレン草のおひたしなど作ってくれたので、自然と鉄分も補えていたのだと思います。ほかにも、ユリ根、おからなど、いろいろな食材を使って栄養のバランスを考えた食事を作ってくれていたんだと、あらためて感じました。20歳くらいまでは特に感じませんでしたが、年齢と共に体の回復力が遅くなり、衰えを感じるようになったとき、それまで当たり前だった食事がいかに大切だったのかと痛感しました。

引退後は夫、留学生のサポートへ

 日本から留学してくる子たちの多くは、そんなに金銭的に余裕があるわけではないので、栄養のバランスを考えたご飯をいつも食べられるとは限りません。現役を引退した今は、自分の経験を踏まえて、今度はそういう子たちの食のサポートもしてあげたいなと思っています。現役をやめて肉を食べる量が減ると、闘争心が減ってきたような気がします。やはり、タンパク質をしっかりとることで、体も心も元気になり、試合での闘争心ややる気につながっているのだと思いました。

 昨年結婚して、今は旦那(ベトナム系米国人)が選手として世界大会出場を目指しているので、これからはよりバランスを重視した食事を心がけていきたいと思っています。自分は子供の頃から好き嫌いなくバランスよく食べなさいと言われて育ってきましたが、アメリカでは偏食の人がとても多いです。旦那もその一人で、魚介類はまったく食べられませんし、最近やっとサラダを意識して食べられるようになったほど。つき合い始めて私が驚いたのは、マクドナルドで夕食を済ませることでした。私自身はジャンクフードや脂っこいものは体が受け付けないようで、口内炎ができたりするのでほとんど食べません。

 競技を続けていく上で、周りの人がサポートしてくれていることに感謝することはモチベーションにつながっていきます。それは食事や睡眠などの質にもつながっていると思います。食べ物だけでなく、生活のバランスも大切だと思います。スポーツ選手は、睡眠と食事と運動はセットでトレーニングの一環としてとらえる必要があると思います。

伊藤観世(いとう・みるよ)

 1985年7月20日、奈良県天理市出身。95年、小学校4年生の時に極真会館に入門。19歳で第5回世界大会型の部に初出場し、世界一の栄光を獲得。2年後の07年に出場した第6回世界大会では、組手にもエントリーして初優勝し、日本人として史上2人目の世界チャンピンとなった。型の部では2008年、2009年、2012年にも世界大会で優勝し、4度の王者に輝いている。2010年に学生ビザを取得し、ロサンゼルスに留学。語学学校に通いながら、極真会館ロサンゼルス支部に所属。2012年に現役を引退し、現在はインストラクターとして若手育成に力を注いでいる。