第98回全国高校野球選手権の各地区大会が開幕。育ち盛りの高校球児にとって、食事に気を配ることは「食トレ」とも言われ、練習と同じくらい重要な要素となっている。大きく丈夫な選手たちの体は、どのようにつくられているのか。平塚学園(神奈川)は白飯を1日2・5キロ食べる食事トレーニングを行っている。
自主練のリカバリー、1日5食
就寝30分前にどんぶり飯をかき込むなんて、メタボのもとだ!と思う人、多いのではないだろうか。それは運動しない大人の話。平塚学園野球部の寮生たちは、毎晩午後10時過ぎにこれを食べる。しかも夕食とは別に。自主練習後のリカバリーとして400グラム。はかりで計測し、ふりかけやお茶漬けなど、自由にアレンジする。
「体重をアップするにあたって、食べて寝るのが一番かなという考えです」。寮監を務める川端満コーチ(24)は言う。昼も弁当を届けてもらい、3食きっちり管理する。朝700グラム、昼400グラム、練習の合間におにぎりを400グラム。そして夕食600グラムに夜食400グラム。1日に食べる白飯は合計2・5キロに及ぶ。
きっかけは7年前。八木崇文監督(37)の就任1年目だった。当時、高校球児は今より全国的にきゃしゃだった。「体を大きくしたいと思ったんですよね。親御さんから大事なお子さんを預かっている。ケガしない体をつくるためにも食事だと。消費カロリーを考えたらもっと食べないと」。神奈川には向上、横浜隼人など、通いでも体格のいい強豪校がある。寮生はもちろん、通いの生徒にも補食を取らせた。部員が風邪をひきにくくなった。食事量は年々、増えていった。
2年前までは夕食で一気に1・2キロ食べさせていたが、完食に1時間かかったり、食べきれずに戻す生徒もいた。そこで補食、夕食、夜食に分割した。体重の増減は川端コーチが週1回、全員分をチェック。増えすぎた場合は、夜食の量を減らして対応する。「僕も毎日寮で食事しますが、ここのはおいしい。自分が高校生の時は作り置きで、冷めたご飯でしたから」。部員の胃袋を支えるのが、小泉巌調理長(59)だ。
ホテルの板前経験があり、かつて自分の店を開いていた。凝った料理もお手の物。だが「ここは彼らの家。シャレたものこさえてもしょうがないじゃない。家庭料理と思って作ってますね」。取材日の夕食は豚ロースの焼き肉にホッケの塩焼き。コールスローサラダとウズラの卵の串フライがついた。ご飯が進む甘辛の味付けがポイントだ。
苦手な選手が多い魚はフレークを使う。白飯を流し込みやすいよう汁物を多くし、そこに野菜も入れる。吸収が良くなる。エースとして昨夏、県8強の原動力になった高田孝一投手(3年)は、入寮から体重が6キロ増の84キロになった。「体力も体重も筋力も食事がないと増えない。すごく助けられてます。1年生の時は食べるの苦しかったですけど」。今春は延長13回の末に桐蔭学園に敗れたが、140キロ台の直球でプロも注目する実力派に成長した。
12月末の合宿では、鍋で冬場の体作りを助ける。カセットこんろを並べ、2週間みんなで鍋を囲む。白米は1キロ、おじやで200グラムを追加。飽きないよう寄せ鍋、海鮮鍋、キムチ鍋とバリエーションも豊富だ。
1年生は入学から約2カ月をかけて胃袋を拡張。先輩と同じ食事量に慣れてきたところだ。八木監督はしみじみと話す。「睡眠、食事と練習以外のところがすごく大事。OBはみんな、卒業してから恵まれていたと分かるみたいです」。温かい寮飯と白米パワーで、平学ナインは丈夫な体を手に入れている。【鎌田良美】
<平塚学園のレシピ例>
■豚ロースの焼き肉
①サラダ油で豚肩ロースの両面を焼く。
②焼き色が付いたら、刻んだ新タマネギなど野菜を入れて炒める。火加減は最初から強火。
③市販の焼き肉のタレに好みでハチミツをまぜたタレを加えて煮詰める。
■鶏肉のピカタ
①鶏もも肉を平らに開く。
②塩こしょうを振り、小麦粉をまぶしてから、溶き卵に浸す。
③フライパンにサラダ油をひいて焼く。卵に焦げ目が付いたら、オーブンで約20分火を通す。(電子レンジでも可)
④ケチャップと中濃ソースを同量まぜたソースを絡める。
(2016年6月14日付日刊スポーツ紙面から)