個人に特化した、より専門的な栄養管理を実践する学校もある。今春東京大会2回戦で私学の名門、早実を撃破した都立昭和(西東京)の取り組みに迫る。同校はスポーツ栄養管理システム「NACS」を導入。食のプロとタッグを組み、1人1人に即した栄養素を専用の強化食で補っている。
春季東京都大会で早実破り注目
「よし、今日も勝ったぞ! カンパーイ!」。昭和野球部は大会後、シェーカーを持って乾杯する。中身は粉末を水に溶かした特製ドリンク。大豆たんぱく、ホエイたんぱくをメインに配合された「NACS」の食トレ専用強化食だ。食事にどれだけ気を配っても、摂取しきれない栄養素はある。“手が届かない”部分を、これでバランスよく補う。
10年秋、昭和は東京大会で4強入りした。森勇二監督(50)は周りの強豪私学を見渡した。立派な寮で生活する部員たちは、そろって体格が良かった。「うちは都立で寮がない。合宿中しか食事まで見られない。私立の選手より背は高くても横が細かったり、おしりが小さいんですよね」。上位校に仲間入りしたことで、他県指導者との交流が増えた。そこで岐阜の関商工から紹介されたのが「NACS」システムだった。
体作りの基本はあくまでも「食事」。通いの場合、保護者の協力は必須となる。新入生が入部すると、まず親を対象に説明会を行う。糖質は果物から取った方がいいなど、具体的にレクチャーする。そしてプロの手を借りる。
入部時に親対象の食事説明会
3日分の食事内容を詳細に記録し、提出する。時間、量など口にしたすべてを書き出す。不足している栄養素、過剰摂取の栄養素を1人1人、割り出してもらう。このデータを基に配合されるのが食トレ強化食。毎年、内容も見直す。同校を担当する大塚克己コンディショニングトレーナー(34)は「季節、ポジション、身長、体重、体脂肪率に応じて中身は違います」と説明してくれた。
投手は持久力がいるし、野手はパワーがいる。冬は強い体をつくる時期、夏大会前の今は体重が落ちないよう整える時期だ。大塚トレーナーは毎月、選手の筋肉量や体脂肪率を測定に同校を訪れ、指導を行う。「学年ごとに成長度合いも違う。身長に応じたご飯の適量もあるんです」。かつて欽ちゃん球団として知られる茨城ゴールデンゴールズに所属していたが、腰と膝のケガで現役を退いた。自身の経験も基に、丈夫な体作りをサポートする。
授業が終わる午後3時過ぎ。グラウンドに出てきた選手たちは、練習より先にどんぶり飯を食べ始めた。かつお節やふりかけ、漬物をお供に1人1合。毎月100キロ送られてくる米を、女子マネジャーが1日4回にわけて炊いている。森監督は言う。「たくさん食べることを、食の1000本ノックって言ってるんですけどね。3年生は引退して受験勉強を始めると、体がシューッと小さくなる。本当に努力してたんだなっていうのが分かる」。
今春の東京大会2回戦では、スラッガー清宮幸太郎外野手(2年)擁する早実を破って注目を集めた。もともと、「甲子園に出ても恥ずかしくない体にしたくてね」(森監督)とスタートした食トレ。全国舞台で昭和野球部の姿が見られるのも、そう遠くないかもしれない。【鎌田良美】
株式会社コーケン・メディケアのスポーツ栄養管理システム。Nutrition Administration Conditioning Sports Systemの略。選手1人1人の食生活を把握し、必要な栄養を分析。コンディショニングチェックを基にした栄養、食事指導を行う。高校野球でも浦和学院(埼玉)、桐光学園(神奈川)など全国で多くのチームが導入している。
(2016年6月17日付日刊スポーツ紙面から)