今年の選抜高校野球に出場した創志学園(岡山)の練習で、最初に目に飛び込んできたのは、練習着姿の選手10人が炊事場でうどんをゆでている姿だった。野球の練習着にお鍋? このアンバランスな組み合わせに、思わず目が釘付けになった。
うどん作りを担当するのは、夏の大会のメンバー外の選手10人。5月上旬に登録から外れると、バッティングピッチャーなど練習のサポートから補食作りまでを担当する。
「2011年、甲子園に初めて出場したとき、他の出場校の選手たちの体が大きくてビックリしたんです。うちは身長はあるけれど、比較的スマートな選手が多い。これはもっと食べて体を大きくしないとダメだ、ということで始めたんです」と中川隆太部長は説明する。
選手たちは夕方になるとお腹が空く。しかも、ハードな練習。
「できるだけ空腹な状態を作らないようにしているんです。練習中ですから食べやすいうどんが多い。炭水化物のうどんでエネルギーを補給して、タンパク質のある卵で筋肉を補修する。そんな狙いです」(中川部長)。
1年後に10キロ増、ケガ人も減る
選手それぞれが、練習の空き時間をみつけて補食を摂る。この取り組みを始めてから、入学後半年ほどで体重が増え始め、1年を過ぎると各選手とも約10キロの増量に成功するという。上級生になるにつれケガも減り、体調を崩す選手も少なくなった。
食材は、監督やスタッフが近所のスーパーで購入。それを、サポートの選手たちが調理する。どんぶり飯やレトルトのスパゲティのときもあるが、ほとんどがうどん。選手たちが飽きないように、冷蔵庫に残ったものでトッピングを工夫しており、取材日は、モヤシをバターで炒めてトッピングしていた。
「いつも、みんな美味しいって食べてくれます。そう言ってもらえると作った甲斐がある。うれしいですね」と“クッキング隊”の上戸海優選手。これまで、好評だったのはカレーうどん。監督の提案で肉を炒め、市販のカレールーで調理。選手たちも大喜びでたくさん食べたという。
愛情詰まったうどん、チームワークも強める
ここまで見ていると、不思議と練習着で調理している選手たちの姿が、妙にしっくりくる。
「練習していると、途中で食べないと体力が持たないんです。そんな僕らのために、サポートのみんながいろいろ工夫して作ってくれる。本当にありがたいです」とキャプテンの野川悟くんは語る。
「今日の味はどうかな?」(篠崎智選手)
「みんな喜んでくれるかな?」(伊藤大賀選手)
「高田(萌生投手)はこの器がいいよね。たくさん食べて力つけた方がいいからね」(上戸選手)
メンバーから外れたにもかかわらず、嫌な顔ひとつせず、楽しそうに主力選手のために調理をするサポートメンバーを見ていて、チームワークの強さを感じた。
「野球部の寮の食事は、学校から運んでくるので、出来たてのものを食べることが難しいんです。冬や春先は少しでも作りたての温かいもの、夏は冷たいものを食べさせてやりたいという監督の親心とでもいうのでしょうか。そんな思いもあるんです」(中川部長)。
練習中に「うまい!」と口にしながら美味しそうにうどんをすする選手たちを見ていると、このうどんが補食の目的だけでなく、監督と控え選手の愛情そのものに見えた。【保坂淑子】
うどんは油が少なく消化の良い食品です。エネルギーになりやすいので補食には向いています。卵などが入ることでタンパク質もありますし、どんぶり飯、パスタに比べて汁があるので水分補給や、発汗による塩分補給もできます。
温かいものが入れば身体が冷えることもありませんし、ハードな練習の間のエネルギー補給として食べやすくて良いでしょう。ただ、運動の合間ですので、いろいろな食材を入れるよりも「消化がよいもの」ということを考えながら、シンプルなものを作る方がいいでしょう。
フリーライター、エディター。日刊スポーツ出版社刊「プロ野球ai」デスク、「輝け甲子園の星」の記者を務める。「輝け甲子園の星」では“ヨシネー”の愛称で連載を持つ。「ヨシネーのひとりごと」(ニッカンスポーツコム)も連載中。
※2017年第89回選抜高校野球出場