大相撲名古屋場所が始まりました。先場所、5月の夏場所では、優勝した白鵬が表彰式で、大きな太鼓型のチーズと豚のももの形をしたハムを受け取るシーンがテレビで放送さ れましたが、印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
これらは、日本とイタリアの国交150周年を記念して、イタリア食品の代表として贈られた「パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ(直訳するとパルマの、レッジョのチーズ)と「プロシュット・ディ・パルマ(パルマの生ハム)。パルマは、かつてサッカーの中田英寿氏が所属していたチームがある、北イタリアのミラノから東に約100キロのところに位置する中規模の町で、食の町として世界遺産に指定されています。そのパルマが誇る2大食品が、このチーズとハムなのです。
パルミジャーノ・レッジャーノは「チーズの王様」と言われ、プロシュット・ディ・パルマは世界3大ハムの1つとされています。その産地の気候、地域性を生かして作り続けられた伝統製品として、EUから原産地名称保護も受けています。また生産方法にも規制があり、どちらも12カ月以上の長期熟成期間を経て、厳しい検査に合格したものだけが、パルマブランドとして市場に出回ります。
12世紀から原料、製法は変わらない
パルミジャーノ・レッジャーノの歴史は古く、12世紀には修道院の僧侶たちが製造していたといわれます。畑を耕すために飼っていた多くの牛の乳を、できるだけ長く保存したいということから長期熟成して、輸送のできるハードタイプのチーズが作られました。原料は、前の日の夕方に搾った乳をバットに入れて自然に浮いた脂肪分を除いた脱脂牛乳と、朝に搾った牛乳、塩、仔牛の胃を乾燥させた自然の凝乳酵素、そして前日のチーズ作りで出た水分(ホエー)、塩水漬けに使われる塩のみです。今でも当時と同じ原料、同じ製法で作られています。
生ハムは、冷蔵庫がない時代に肉を保存するために、作られはじめました。簡単に言えば、肉の塩漬けです。こちらも、原料は昔から変わらず、豚の後ろ足のもも肉、塩のみです。チーズの生産が始まるようになると、チーズ作りで残ったホエーを豚の餌に加えると、ハム作りに最適な肉となることが分かり、パルマの生ハムの原料となる豚には、現在でもホエーを与えています。このようにチーズとハムは、とても関係性が強いのです。
栄養価抜群、タンパク質多く脂質少ない
さらに、パルミジャーノ・レッジャーノとパルマの生ハムは栄養価が非常に高く、イタリアのスポーツ界でリカバリーミール(疲労回復食)として、一目置かれる食品でもあります。
このチーズはタンパク質が33%と高く、肉類と比較しても約10%も多く含まれています。タンパク質は熟成中に加水分解され、体に吸収されやすい遊離アミノ酸となります。
脂質は28%と他のチーズと比較して少なく、しかも熟成中に短鎖脂肪酸となるため、消化吸収を助け、それをすぐにエネルギーにするという効果があります。例えば、牛肉のステーキ100グラムを消化するのに3時間以上もかかるのに対し、同量のパルマのチーズでは40分で済みます。
またカルシウム、リンが豊富で、この2つの成分を一緒に摂取するとカルシウムが腸から吸収しやすくなるという特徴があります。1970年代には、この粉末が消化吸収困難な人のために薬局で売られていたくらいです。さらに、最新の研究ではチーズの脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもカルシウムと作用して、高コレステロールと糖尿病を防ぐ作用があること、さらに長期熟成のチーズは高血圧症を抑える作用があることも発表されています。
パルマの生ハムは、タンパク質が豊富でチーズ同様、熟成期間中に遊離アミノ酸が増え、体に消化されやすいという特徴があります。またバリン、ロイシン、イソロイシンという成分が筋肉疲労を回復させ、筋肉増強を助ける働きをするとして、スポーツ選手に勧められています。
脂質の65%は不飽和脂肪酸で、心血管疾患を予防するといわれるオレイン酸も豊富。ビタミンB群、鉄分などミネラルも吸収しやすい形で含まれています。抗酸化作用のあるビタミンEや、セレンといった成分はフリーラジカル(活性酸素)から守ります。最近の分析では、カルノシンという筋肉細胞のエネルギー生産を規則正しくする物質やアンセリンというカルノシンの抗酸化作用を助ける働きをする物質が含まれることも明らかになりました。
栄養価抜群のパルミジャーノ・レッジャーノとパルマの生ハム。次回コラムでは、これらを使ったレシピをご紹介します。【パルマ在住・西村明美イタリア通信員】