昨年、86年ぶりに日本学生選手権(インカレ)で優勝した明大水泳部(競泳)が、9月2日から東京辰巳国際水泳場で行われる今大会で連覇を狙っている。選手を食でサポートするのは、母親たちで構成される「ご飯隊」。寮生活で恋しくなる家庭料理を存分に振る舞い、精神面でも後押ししている。
「ご飯隊」がサポート、保護者も一丸
競泳選手は持久力とパワーを使うため、「大量のエネルギーに満たされていて、なおかつ脂肪は最小限に抑えられている」という、相反するように思える体が理想とされる。選手は試合が近づくにつれ、練習量を減らしながら、炭水化物中心の食事を摂り始める。選手たちによると、炭水化物の中でも「脂肪が少なくて腹持ちが良い餅やうどん、パスタばかりになることがほとんど」だそうだ。時にはスパゲティーを塩だけの味付けでかき込むこともある。
味よりも、競技に必要な栄養摂取がメインとなる。そんな選手たちが楽しみにしているのが「ご飯隊」だ。寮に隣接するプールで練習ができる夏場限定の特別部隊。その期間の土曜日、10人程度で編成された部員の母親たちが家庭料理をふるまってくれる。時には、地方出身の寮生や寮外生の親も駆けつけて、食事をサポートする。
取材した日は、インカレ3週間前の調整練習日。同部は、寮生とクラブチームで練習を積む寮外生に分かれており、普段はチーム全員が一緒に練習することはないが、この日は特別に51人の部員全員が寮に集まった。
この日のメニューは、卵やシーチキンをコッペパンにはさんだサンドイッチ、ビビンバ風の肉味噌丼やカジキマグロのタンドリー風サラダ、唐揚げやチビフランクフルトなどの揚げ物を盛ったボリューム満点の大皿など、種類豊富で味も抜群だ。ポイントは「安くてバランス良く」。経済的かつ、おいしい家庭的な料理。ただし、競泳選手の食事だけに、炊き込みご飯と白いご飯が主食に用意されるなど、炭水化物多めと工夫もされている。
練習後すぐに食事ができるように、ご飯隊の集合時間は朝7時半。レシピを聞けば「家庭料理だからそんなものはない」「全部適量」と、熟練された主婦の料理に細かいレシピは必要ない。おふくろの味に癒され、選手たちの食卓は活気とにぎわいに満ちていた。
まもなくインカレ。リオ五輪で金メダルを獲得した萩野公介がいる東洋大や、銀メダルの坂井聖人、銅メダルの瀬戸大也擁する早大に対し、明大は五輪出場選手こそいないが、総合力で勝負だ。
「ご飯隊」のメンバーである市川昂也(こうや)主将(法学部4年)の母は「2連覇に向けてみんな力を合わせて頑張っていると思う。保護者も一丸となって取り組んでいます」と選手たちを見つめる。母たちの温かいサポートに支えられた明大の活躍に期待が集まる。【明大スポーツ新聞部】
■勝負メシは「メイジカツ」
明大水泳部には有名な勝負メシがある。渡邊吉松OB会長の夫人が作るメンチカツだ。大会前に選手がOB会長宅に招待されると、験を担いでふるまわれる。「メンチカツ」→「メイジカツ」→「明治勝つ」という意味が込められた縁起のいい料理。もちろん味は抜群で、部員たちは声をそろえて「大好きです」という、愛される勝負メシだ。
大きな大会が近づくと、精神的な疲労が出やすくなります。そんな時、食べ慣れた「母の味」がエネルギー補給に役立ちます。炊き込みご飯や肉味噌丼などの糖質も多く、カジキマグロのタンドリー風サラダなど工夫された料理もあり、楽しく食事ができているのが伝わります。「ご飯隊」のサポートによる明大水泳部の活躍が楽しみです。
正確な創部年は不明だが、記録的には1911年(明44)に競技会出場というのが始め。21年(大10)の第1回インカレで優勝。28年(昭3)のアムステルダム五輪で鶴田義行が200メートル平泳ぎで優勝し、日本水泳界初の金メダリストになるなど、一時代を築いた。その後、団体では長らく低迷したが、昨年インカレ優勝するなど復活しつつある。現在は競泳部門のみ。部員は男子32人、女子9人、女子マネジャー10人の計51人。寮とプールは神奈川県川崎市多摩区三田。佐野秀匡監督。