関東大学1部リーグの強豪・青学大男子バスケットボール部は、伝統的に少数精鋭ながら辻直人(川崎ブレイブサンダース)、比江島慎(シーホース三河)といった日本代表選手を多く輩出している。
体作りに力を入れていることでも有名だが、実は生活環境は恵まれていない。寮はなし。練習拠点が青山キャンパス(東京都渋谷区)と相模原キャンパス(神奈川県相模原市)と2つあり、授業と練習で行き来する生活だ。1人暮らしの選手たちは相模原キャンパス周辺に住んでいるため、大変なのは青山キャンパスで練習が行われる火曜日と金曜日。午後10時に練習が終わり、1時間弱をかけて相模原に移動。帰宅はたいてい0時前後となる。
洗濯や課題もあるし、1限目があれば翌日は6時起き。高校時代は午後7時30分ごろに帰宅し、夕食と入浴を終えるとすぐに寝ていたという安藤周人(4年)は、入学当初を思い出し「ホンマに死ぬかと思いました」と真面目な顔で振り返る。食事どころか睡眠時間を確保することすら大変だが、それでも筋肉量と体重をキープするために食べなければならない。
同部では月1回の栄養講習や個別の栄養カウンセリングを行ったり、コンディション管理システム「ワンタップ・スポーツ」を使い、日々の体重、食事量・質などを細かく記録したりすることで、一人一人が栄養管理を意識できるよう促している。
同部を担当する管理栄養士の中村志織さんは、帰宅が遅く、外食が多い選手たちをこう指導している。
「睡眠時間を削るくらいなら、コンビニなどで便利なものをフル活用したほうがいい。最近はレトルトのお惣菜も増えたし。外食の時はごはんと肉だけでなく、サラダや小鉢をプラスしたり、コンビニで買って追加で食べたり…。何事もバランスが大切です」。
中村さんのアドバイスを受け、選手たちは自分で考え、工夫して、強くなるための食事をとっている。
1人暮らしの食事内容
まずは1人暮らしの代表として、安藤と高橋浩平(2年)に食事のとり方を聞いた。
【朝食】2人とも通学途中にコンビニで購入し、学校に到着してから食べることが多いという。内容はおにぎりやサンドイッチに100パーセントのオレンジジュースやヨーグルトなど。
【昼食】学食を利用し、カレーやうどんなどを食べる。
【夕食】帰宅時間に開いている飲食店がほとんどないため、牛丼店を利用することが多い。どんぶりもの2つにサラダと味噌汁という選び方が基本。
「相模原でなく、(青山キャンパスに近い)渋谷で食べた方が選択肢が多いのではないか」と尋ねると「量をたくさん食べられる店がない」(安藤)とのこと。体育会学生の胃袋を支えるには、渋谷界隈のこじゃれた飲食店では足りないようだ。
【補食】上記3食に加え、それぞれ補食を取り入れている。「1回の量が少ないのとおなかがすいている時間を減らしたいから」と目的を話す安藤は、1限終了後、練習前、練習直後におにぎりやサンドイッチなど軽い食事を加えている。
ちょっとでもおなかがすくと体重が減ってしまうという高橋は、練習前に購買で購入した弁当と練習後におにぎりをプラス。さらに「夜におなかがすいたまま寝てしまい、体重が減った」という反省を受けて、夜食にサンドイッチやカップラーメンをとることもある。
中村さんは夜食の選び方について、こう話す。
「カップラーメンは主に炭水化物と脂質で作られていますが、体づくりに必要な栄養が満たされていないため筋肉もつかないし、疲労回復も期待できません。さらに夜中に食べることでうまく消化されず、翌朝の朝食に響いてしまうことにもなりかねません。たまに食べる分には問題ありませんが、日常的にとることは避けてほしいです」。
代わりにすすめるのが、調理の手間がかからずタンパク質が豊富な納豆、チーズ、豆腐、乳製品、魚肉ソーセージなど。「簡単に、そのまま食べられるので冷蔵庫に入れておくといいですよ」。
【練習がない日】安藤はごはんを2合炊き、スーパーで購入した惣菜と食べる。肉だけでなく野菜も豊富に入っているものを選ぶのがポイント。下級生のころはカレーを大量に作り、何日かに分けて食べていたという。高橋は2.5合のごはんと野菜と肉の炒めものといった簡単なものを自分で作っている。
このようにコンビニやファストフード中心の生活を送りながらも、ごはん、肉、野菜、乳製品、フルーツをバランスよくとることを意識している2人。安藤は入学時188センチ、78キロの体格から4年間で92キロまで増量に成功。高橋は慣れない1人暮らしで入学当初から夏までに5キロ減らしてしまったが、現在は入学時プラス3キロまで持ち直した。ただ、2人とも乳製品やフルーツをとるのには苦労しているとのことだった。
実家暮らしの食事内容
1年生は5人全員が実家通い。昼や補食は1人暮らし組と同様、学食やコンビニを利用するが、朝と夜は家の食事を食べている。
とはいえ、帰宅時間は1人暮らし組とそれほど変わらない。「夜に思い切り食べられないから色々大変です」と話したのは納見悠仁(1年)。帰宅途中に補食のおにぎりをとるため家ではごはんを少なめにし、タンパク質の多いささみを使った料理をリクエストしているという。
200センチのウィタカ・ケンタ(1年)は、母親にタンパク質と炭水化物が多めの献立をリクエストしている。「高校時代は身長だけでなんとかなっていたけれど、大学では体ができていないと勝負ができないのは明らかでした。内容を変えてからは体重も増えてきています」。高校時代は朝ごはんをとらずに早弁でしのいでいたが、今は母お手製のサンドイッチやおにぎりを持参し、通学途中に食べることで食事量の減少を防いでいる。
体作りのため、食への意識を高めることは、選手の自立につながっている。【青木美帆】
1929年創部。長谷川建志前ヘッドコーチ(現男子日本代表ヘッドコーチ)の下、90年代後半より力をつけ、関東学生1部リーグ、全日本学生選手権などで華々しい成績を挙げている。廣瀬昌也ヘッドコーチ体制4年目となる今年は1、2年生チームが新人戦で優勝した。