とある中学野球部の野球ノート。そこには、身長、体重、個人目標や、その日の練習の感想が書いてあり、一見、普通の野球ノートのように見えた。しかしある一文に目が止まる。そこにはこう書かれてあったのだ。
【今日のタンパク質摂取量=115g/内容=サバ缶、豆腐、卵、納豆、米、ヨーグルト…】
食べた物をノートに書く選手はいるが、「タンパク質の量」まで書いてあるのは初めて見た。しかもこれは中学生が書いたもの。表紙に大きく「食事も練習」と書いている選手もいる。「食」への意識がスゴイと感じた。
「書く内容は自由にさせていますが、栄養のことを気にして書いている選手が増えてきましたね。野球のノートと、食事のノート、2冊を書き分けている選手もいるくらいです」。そう話すのは、宮城・仙台育英学園秀光中等教育学校(以下、秀光中等)野球部、須江航監督(33)だ。
秀光中等は、高校野球の強豪校・仙台育英系列の中等教育学校で、軟式野球部は高校と同じ「IKUEI」のユニホームを着て戦う“弟”のようなチームだ。近年の強さは輝かしく、仙台育英OBでもある須江監督が就任した06年から10年間で9度の全国大会に出場している(春・夏)。2014年夏には、「全中」の呼び名で知られる最大のチャンピオンシップ「全国中学校軟式野球大会」で優勝。2015年も準優勝を修めた。現チームは秋のブロック大会で優勝し、来春3月の全国大会出場を決めている。
そんな選手たちが、この秋、食トレに目覚めた。専門家による本格的な栄養指導を3学年全選手(41人)、その保護者が受講したことがきっかけだった。
話の中で「中学生は身長-105」が理想体重であること。体重の重さは、除脂肪体重が大切だということ。筋肉量を増やすにはタンパク質の摂取が必要で、体重×2gが理想だということを学んだ。そして講義のあと、タンパク質量の多い食材を試食した。
星虎州雲(こすも)君(3年)はタマゴサンドを頬張りながら「初めて聞く内容ばかりだったので、今日からさっそくやりたい。競争の激しい高校野球に進むので、能力とパワーをもっとつけたい」と意気込んだ。
打撃のキーマン・小熊慎之介君(2年)は魚肉ソーセージの包装紙を見ながら「これ1本でタンパク質が11g。いま飲んでいるプロテインも調べてみます」と張り切っていた。普段なにげなく口にしている物への興味が沸き、ノートへの記入につながった選手たち。「大好きな野球につながるなら!」とみんな楽しそうだ。
中学生にあった食育、まずは栄養に興味を
須江監督は6年前にもチームで食トレを行っていた。練習前に米を炊いて、ひたすら食べるやり方。しかし思うような成果が得られなかった。「体重を増やすことを主眼に置きすぎてしまい、パフォーマンスのスピードが落ちたんです。選手たちも食べるのが辛そうだった」と反省する。中学生は高校生と違って、成長期の真っ直中にいる。消化器が未熟な選手も多い。「まずは楽しく、栄養への興味を持ってもらおう」と考えを改め、今回の試食会につなげた。
タンパク質の含有量を自分で調べて足し算していく選手たち。家庭では、親子でインターネット検索して調べることもあるという。ゲーム感覚に似た楽しさは、ポケモンゲットならぬ、タンパクゲット!? 来春、再び「日本一」をつかむための準備を、「食」の知識から積み重ねている。【樫本ゆき】
自分が何を食べて大きくなるのか、その意識を持つためにも「食事ノート」は良い考えだと思います。中学時代に、身体を大きくすることに重点を置きすぎると、食べるのが苦痛になる選手が多いものです。タンパク質量という分かりやすい数字を目標にすることで、食事を楽しむことができるのは良いでしょう。「食事も練習」と、自分の身体と向き合うと変化に敏感になります。野菜などビタミン類も意識するようになると、より効果的です。
創立1996年、創部2005年。全国中学校軟式野球大会(全中)で2014年優勝、2015年準優勝など、全国大会9回出場(春・夏)。部員28人(2年=10人、1年=18人)。部のスローガンは「日本一からの招待」。小湊陽部長、須江航監督、小野寺翔学生コーチ。3月に静岡で行われる文部科学大臣杯第8回全日本少年春季軟式野球大会(全日本)の3年連続4度目の出場が決まっている。