高野連の加盟校では全国最多の194校、参加校では愛知に次いで2番目に多い188校の神奈川。その激戦区で「東大合格」と「甲子園出場」の両方を目指し、取り組んでいるのが、川和(横浜市都筑区)だ。
甲子園未出場ながら、これまで2度の県8強入りを達成している。2007年夏以来の準々決勝進出となった15年秋は、伊豆原真人監督(39)の下、「緩急を使った投球術」と「鋭いスイングでの強打」で勝ち進み、他の公立校の見本となった。常に「打倒私立」を意識した練習と、県外の強豪私立との練習試合で日々、秘策を練っている。
そんな川和が行っている食トレは、名付けて「文武両道みそ汁」。選手が家から食材を持ち寄り、3人の女子マネジャーが、部員40人分のスープやみそ汁を作るというもの。その具材がなかなかユニークで興味深い。
リーダーの中河友里さん(2年)は「余った野菜の切れ端から、モチや、マロニー、スパム、なんでもアリ。夏の余ったそうめんを持ってきた選手もいました。これが結構、美味しいんです!」とニッコリ。米担当の女子マネが毎日38合のごはんを炊き「汁物・ごはん・生たまご」の3点セットで食トレを行っている。
「汁物は11月から3月ごろまでですが、ごはんは通年。体を大きくするため、夏に体重を維持できるよう、2年前の秋から始めました。家に負担をかけない方法を考えた末、『家庭の残り物』で作る汁物にたどり着きました。何が入っているかわからない。『ヤミ鍋』みたいなものですね(笑)」(伊豆原監督)。取材に行った日は、コンソメスープとカレーの「スペシャル2種類デー」を用意してくれた。
なぜ「“文武両道”みそ汁」なのか? 実は選手全員が学習塾に通っており、練習の後も気の抜けない“戦い”が待っているからだ。午後7時に練習が終わると、10~11時までが塾。どこかで食事を入れないと、集中力が続かない。「ですので、食トレタイムを午後5時に設定して、練習のローテ―ションに組み込んでいます。サッと食べて、次の練習に向かう。練習が終わったら、すぐに塾に移動し、勉強する。時間が少ないので、選手たちの動きはとても機敏です」(伊豆原監督)。
キャプテンの市村将吾選手(2年)は「食べることも練習と同じくらい大切にします」と言い切る。「秋の間に体重が3キロ増えて、打球の飛距離が伸びてきました。毎日、帰宅が午後10時で、そのあと自宅でオンデマンドの授業を受けるので、練習中にご飯が食べられるのはありがたいですね。進路は、国公立で硬式野球ができる大学を志望しています」と話した。
OBには1浪で東大に合格し、野球部2年の三鍋秀悟選手がいる。横浜国大、筑波大、北大、一橋大、東工大、首都大東京、阪大、神戸大、慶大、立大、上智大など、過半数の選手が硬式、準硬式で野球を続けているのも特徴だ。昨秋からOBで、ヤクルトドラフト1巡目指名投手の加藤幹典氏(慶大=31)が非常勤コーチに就任。月1回の指導と、「大学を経てプロ野球選手になること」への夢を、選手たちに教え、刺激を与えている。
神奈川の公立4大進学校、SSKH(横浜翠嵐、湘南、川和、柏陽)の1つ。昨年度は3人の東大合格者含む、74人の現役国公立合格者を輩出した。早大への現役進学率が全国の公立高校で日本一となり、雑誌「サンデー毎日」の特集記事で「この10年で伸びた学校」と紹介された。「進学校なのに、学校行事が盛んで、部活動も強い。活気ある校風が魅力ですね」と伊豆原監督。放課後になると、グラウンドや体育館が一斉に活気づき、明るい掛け声が交差する。「文武両道」を学校全体で実践している人気校だ。
「勉強も、野球も、食トレも。すべて結果を出すのが川和野球部のやり方。結果にコミットさせられるよう、僕も努力していきます」。神奈川では県立高校からの甲子園出場が65年間ない。この「みそ汁」のように、技術と智恵を持ち寄った「やりくり野球」で強豪私立に粘り勝つ。【樫本ゆき】
学校創立年の1963年創部。部員人40(2年=17人、1年=20人、女子マネ=3人)。主なOBは加藤幹典(元ヤクルト投手)、三鍋秀悟(東大野球部2年)ほか。2007年夏、2015年秋の神奈川県大会でベスト8。堂園学部長、伊豆原真人監督、山本雄大副部長。他の部活では、陸上、弓道、ダンス部などが全国大会出場を果たしている。生徒数999人。進学率100%。昨年度の合格実績は、東大、京大、横国大など国公立大の現役合格者74名。MARCH合格者数は全国2位。