宮城県北西部の栗原市にある県立築館(つきだて)高校野球部は、オフに長期的なスパンで「食トレ」に挑戦し、身体作りをしてきた。
「モチベーションアップも兼ねて、長期的に写真で記録を残していったらどうだろう」。利根川直弥監督(44)の発案で、昨年10月から3月までの約半年間、女子マネジャーが食トレの写真を毎食撮影。LINEアルバム(インターネット上の保管フォルダ)にストックし、食トレ日誌を続けることになった。
築館の部員は現在9人。部の歴史は創部116年と古く、かつては夏の宮城大会で準優勝するなど、上位常連校でもあった。古豪復活へ-。ゆるやかな結果が出始めた1月下旬、同校を訪ねた。
「ただ体重が重いだけの肥満体を作るのではなく、『質量』のある身体を作るのが目的です。部員数が少ないので、お米も用意しやすいし準備も簡単。大谷翔平選手(日本ハム)が炭水化物を食べて増量期を作っていたという記事を読んで、ウチも米だな! と思いました」(利根川監督)。
「米どころ・宮城」で、農家から米の差し入れも多い築館。以前は練習の合間に、補食としておにぎりを食べていたが、昨秋から「練習後に夕食としてしっかりゴハンを食べてから帰る」スタイルに切り替えた。ゴハンの量は1人2~3合。そこにおかず、副菜(キャベツ)、みそ汁、生卵、納豆という定食スタイルで、週4回、平日限定で食トレを行った。
女子マネ2人が食事作り
大活躍したのがマネジャーだ。佐藤莉佳子さん(2年)が「おかず買い出し係」、小原愛さん(1年)が「炊飯係」に就任。佐藤さんが1人100円の予算を考えて、学校近くのスーパー2軒をハシゴ。安くてゴハンが進むおかずを探し回った。
「コロッケ、餃子、エビチリ、麻婆豆腐、カレー、春巻…日替わりで買っています。意外と好評だったのが、フランクフルト。コロッケは安くて経済的なんですけど、部員から『モソモソしてゴハンが進まない』と不評でした~!」。サポートする楽しさにすっかりハマっている佐藤さん。「この任務が来た時『楽しそう!』って思いました。冬の練習は単調なので、こういうところで選手のモチベーションが上がるのはすごくいいですよね。キャベツの千切りがどんどん速く、細く切れるようにもなりました。選手から『胃が膨らむから温野菜にして』とリクエストがあり、12月からはキャベツを湯通ししています」。
部員全員が「人生最重量」
選手からは「最初は食べるのが苦しかったけど、だんだん胃袋が大きくなっている実感があって、ユニホームの太もも部分がパツパツになってきました」(菊地慶太選手)、「納豆→生玉子の順番で食べると、ゴハンが胃に入っていきやすい。全員で取り組んでいるので意識が高まります」(米澤春輝選手)、「身長-100キロを目標にやっていて、いま全員が『人生最大重量』になっている状態です」(髙橋祐輝主将)と効果を実感。3カ月の途中経過は、全員が3キロ~13キロの増量に成功している。
3月に入り、築館の食トレは仕上げに入っている。「増えた体重を、パフォーマンスに生かすことが1番難しいんですよね」と話す利根川監督は、体重を維持したまま4月の公式戦に臨むことを目標に置いている。「食トレを通じて『食べる』意識が身についたので、シーズンに入ったら、自分たちでおにぎりを食べるなど工夫して今の体重を維持して欲しいですね」と選手たちの「自立」を促している。練習ではスイングスピードの数値が上がり、手ごたえを感じている。
栗原市からもう一度甲子園へ
「もう一度、栗原市から甲子園へ!」。専用球場の外野フェンスに貼られている横断幕の文字が大きな目標だ。人口約6万9000人の栗原市からの甲子園出場は、2005年センバツに21世紀枠で出場した一迫商以来、果たせていない。
現役時代、仙台6大学リーグ・東北学院大の遊撃手として3度ベストナインに輝いた利根川監督は高校時代、県立古川の一員として仙台育英を倒し、秋ベスト4入りした実績があるだけに、選手たちにも強豪私立を倒す喜びを味わってほしいと願っている。積み重ねてきた食トレの努力。築館ナインは自信をもって、4月からの春季地区大会に臨む。【樫本ゆき】
創部116年目。部員数9人(2年=5人、1年=4人、女子マネ=2人)。主なOBは赤坂光昭(ヤクルト)、高山広(俳優)ほか。1968年に宮城大会準優勝。櫻田慶也部長、利根川直弥監督。栗原市内5つある高校のうちの1つで、部は両翼91メートル、中堅120メートルの専用球場を持つ。
部活の後に夕食を食べて帰れるのはいいですね。練習終了後30分以内に糖質とタンパク質をとると疲労が早く回復するといわれており、食トレでその条件が満たされています。みそ汁に乾燥ワカメ、キャベツの副菜にゴマをひとふり加えるとミネラルも補給できます。4月以降も各自意識して、取り組みを続けてください。