センバツ高校野球に4年ぶり(4度目)に出場する盛岡大付(岩手)。チーム紹介のアンケートで「流行っている食べ物」をたずねると、選手たちは「小野寺さんのセアブラ!」と口をそろえて即答した。
セアブラ? 小野寺さん??
エースの平松竜也投手(3年)に聞くと「寮の食事を作ってくれている小野寺さんの料理が、何でも美味しいんですよ。特にセアブラはゴハンが何杯でも進む、最高の品なんです」と興奮して教えてくれた。
「小野寺さんのセアブラ」。これこそが、強打のモリフ(盛岡大付)を支える最強のパワーフードらしい。その秘伝の味を取材した。
ご飯の供の最高傑作、常備食
「ごく普通の豚の背脂なんですけどね…。選手たちがそんなことを言ってくれるなんてうれしいです」。控えめに、でもうれしそうに話すのは、4年前から1年生野球部寮の食事の世話をしている小野寺均さん(51)だ。名刺には「盛附野球部の料理番」と書いてある。
盛岡大付に入学すると、野球部員(約30人)はまず、小野寺さんが寮監を務める「清翔寮」に入寮する。上級生になると、学校敷地内の学生会館に転居する仕組みになっているが、今年のセンバツを戦うメンバーや、2014年ドラフト1位の松本裕樹投手(ソフトバンク)も小野寺さんの手料理を食べて、体を強く鍛えていった。
調理師として、県内のホテルなどで20年以上働いてきた小野寺さんの得意分野は、中華料理。「ゴハンが進む、おいしい味」を日々追求し、研究を重ねている。名物「セアブラ」は、長年の経験で築いた独自の入手ルートで、食材や調味料にこだわって作り上げたご飯の供の最高傑作だ。
*◆小野寺さんのセアブラ(調理1回分)*
【材料】豚の背脂(3キロ)、鶏挽き肉(1キロ)、タマネギ、ニンニク、ショウガ、煮干し粉、かつお節、ノリの粉末、白ゴマ、パン粉(それぞれ分量は秘伝の量)
【調味料】しょう油、酒、砂糖、みそ、ゴマ油
「材料をじっくり炒め、味がしっかりなじんだ後に、パン粉を入れる。これをゴハンに混ぜて溶かしながら食べるのがウマイんですよ~」と小野寺さんは自信たっぷり。マヨネーズやラー油、生卵などと混ぜて食べる選手もいる。普段、自主的に1食1キロ近くのゴハン(約3合)を食べている選手が多く、おかずがなくなった時には、常備食としておいてあるセアブラが大活躍しているそうだ。
もちろん、食事すべての味が絶品だ。朝、昼(弁当)、夕食の3食を担当している小野寺さんは、一緒に生活する選手たちのリクエストを細かく聞き「その日、食べたいもの」を臨機応変に対応している。そのため、寮の食堂には、どこを探しても献立予定表がない。
*◆ある日のメニュー(夕食)*
鶏の油淋鶏
白身魚の甘辛炒め
ワカメと小女子のあえもの
麻婆豆腐
みそ汁
OBで元野球部キャプテン
実は小野寺さんは盛岡大付の野球部OBでもある。前身の生活学園高校4期生で、野球部キャプテンも務めていた。それだけに、練習で疲れて帰ってくる選手たちの気持ちも分かり、どんな食事がサポートになるかも理解している。関口清治監督(39)は「食事のことはすべて小野寺さんにお任せしています。一流中華料理店のような味を提供してくれるので、練習試合に来た相手校の監督も楽しみにしているんですよ」と信頼している。
優しい人柄で、寮では父親のような一面も持つ小野寺さん。「夜中に熱が出て倒れた時に、救急病院に連れて行ってくれた」(加藤凌右選手=3年)、「体調を壊して何も食べられなかった時、小野寺さんのおかゆだけは食べられた」(星雄貴選手=3年)。野菜嫌いで極度の偏食家だったソフトバンク松本投手に、野菜ジュースでカレーなどを作ったこともあったという。
現在、主力として活躍する植田拓選手(3年)や三浦瑞樹投手(3年)などは、寮が変わっても「小野寺さんの生姜焼きが食べたいです~!」と、たびたび顔を出すそうだ。「独身なので子供はいませんが、みんな息子のようですよ。美味しかったです、の一言がとにかくうれしいですね。甲子園では伸び伸びと戦って、楽しんできて欲しいです」。センバツ1回戦は20日、高岡商(富山)と対戦。決戦を前に、選手たちを見守る小野寺さんのまなざしは、どこまでも温かい。【樫本ゆき】
野球部OBの調理師がいてくれる寮生活は心強いでしょう。背脂は食べ過ぎると脂質過多になりますが、おかずとのバランスを取りながら、量を調整するとよいでしょう。おいしい食事で培った実力を、センバツで思う存分発揮してください。
※2017年第89回選抜高校野球出場