高校野球は春の大会が真っ盛り。夏のシード権につながる公式戦で、東北地区では4月中旬から地区大会が行われている。
宮城の北東部、遠田郡美里(みさと)町にある小牛田(こごた)農林は4月22日、このチームとして公式戦初戦となる北部地区大会2回戦で、迫桜(はくおう)に9-0(7回コールド)と快勝した。エース加藤優投手(3年)が7回を被安打3、13奪三振、無失点の好投。失策数も0と上々なスタートで、相澤貴裕監督(45)は「エースの加藤が落ち着いて、持ち味を出してくれた。予選を勝ち抜いて、県大会でベスト8入りしたいですね」と抱負を語った。
小牛田農林は明治時代に私立養蚕伝習所として設立され、2018年に創立130年を迎える宮城最古の伝統校だ。野球部は1946年創部で、夏の最高成績はベスト8の公立中堅校。一方、相撲、剣道、柔道部は全国大会の常連校で、中でも相撲部はインターハイに15度出場し、三段目の大畑(時津風)を輩出した名門だ。野球部の相澤監督は毎年冬になると相撲部にお願いして、合同練習を行っている。
「食トレを兼ねた相撲部との合同練習は毎年冬に2度行っています。野球部の選手は食が細く、体も弱いので、相撲部の取り組みから刺激をもらえればいい」(相澤監督)として、この冬も合同練習を行った。
野球部の選手たちは、普段やらない「股割り」や「シコ踏み」に悲鳴を上げる。相澤監督はそれを見ながら「相撲部の選手は体が大きいのにスピード感があり、運動能力が高い。股関節の柔らかさは野球選手にも絶対に必要なので見習って欲しい」と話した。この日は自転車部の選手も参加。練習後は相撲部特製の「ちゃんこ鍋」でお互いの意識を高め合った。
練習で体をいじめ抜いた後のちゃんこ鍋は格別だ。相撲部、野球部、自転車部の女子マネジャーが協力して作った「塩」「しょうゆ」の2種類のちゃんこ鍋の具材は鶏もも肉、鶏つくね、キャベツ、ニンジン、ネギ、水菜、ニラ、エノキ、シメジ、こんにゃく、油揚げ。調味料は塩、しょうゆ、だし、酒、コショウ。
相撲部の伊藤裕之監督(42)は「ご飯が進むように、やや濃い味で作るのがポイントです。他にも、みそ味、水炊き、カレー味で作ることもありますよ」と教えてくれた。相撲部が3杯、4杯とどんどんご飯を平らげていくのを見て、野球部も刺激を受け、平均3杯を胃袋につめ込んだ。さらに残った鍋の汁にうどんを入れ、それも完食した。
ご飯2杯、うどん2杯を食べたエースの加藤投手は「入学時から1年間で7キロ増えて、今年の冬もさらに3キロ増えました。今日のちゃんこ鍋は美味しくって、どんどんゴハンが進みました」と声を弾ませた。昨夏、加藤投手は2年生エースとして、2回戦の引き分け再試合(対名取)を含む3日連続完投を果たした(合計423球)。緩急を使った巧みな投球術が光ったが、最後はスタミナがもたず、3回戦で敗れた。その後、腰痛に悩まされ、オフ期間中はリハビリと体重増量に励んでいた。
今年のチームは投手層の底上げも行い、この相撲トレ&ちゃんこ鍋の効果で上昇気流を描きたいところ。「相撲部は小牛田の顔!」とリスペクトし、競技の枠を超えて切磋琢磨する野球部の選手たちは強豪校からの「金星」を目指し、今日も練習に励んでいる。【樫本ゆき】
創立1882年。創部1946年。部員数3年=12人、2年=12人、1年=15人。剣道部、柔道部、相撲部は全国大会常連校で、主なOBに伊藤康志(大崎市市長)、大畑(時津風)がいる。野球部は夏ベスト8が最高成績(1997年)。チームスローガンは「謙虚に、ひたむきに、元気よく」。金山浩部長、相澤貴裕監督、菅原豊副部長。