フィギュアスケートのシーズンが始まった。今季はオリンピックイヤー。平昌五輪出場に向けて、女子は2枠の激しい代表争いが繰り広げられる。ともに神戸で、中野園子コーチに師事する4大陸女王の三原舞依(18)、シニア初年度の坂本花織(17=ともにシスメックス)は一段階上の強さを身につけるため、8月からエームサービスに栄養サポートを委託、食事指導を受けている。
三原を担当するのは松岡未希子さん(38)、坂本は西山英子さん(49)。ともに管理栄養士であり、スポーツの現場経験が豊富な公認スポーツ栄養士だ。松岡さん、西山さんにどのようなサポートをしているのか、フィギュアスケート選手に必要な栄養バランスについて話を聞いた。
真面目で素直、意識が高い2人
正式契約前のトライアル期間で、松岡さん、西山さんはすっかり、三原、坂本にほれ込んだ。各人の食事パターンを知るため、食べたものを撮影し、送るように伝えると、2人とも1カ月間きちんと送ってきたという。
「真面目で意識が高く、素直で吸収が早い。平昌五輪に向けての熱い思いを感じました」(松岡さん)。
現在も、食事アドバイスは定期的に実施。そのたびに消費エネルギーにあった食事量とバランス、成長期の女子アスリートとして、必要な栄養が足りているか、足りていないかを判断し、その時に摂るべき食材を教えている。2人とも普段から油ものは好まないが、「とにかく、食べないものがないようにバランスよく」と西山さんは伝えている。
もともと食意識が高かった2人だが、そんなアドバイスを受けて知識を高めており、自分に必要なものを選び、食べる力がついてきている。9月の海外遠征前には、日本から持ち込む和食の素材、フリーズドライのみそ汁、ご飯やタンパク源を指示。また、普段の食事の代用となる食品などを、2人の母たちも含め具体的に伝え、異国の地でも安心して戦えるよう送り出した。
「最終的な目的は、自分の食生活を自分で管理できるよう、選ぶ力をつけてもらうこと。それをサポートするのが私たち」と西山さんが言うように、18歳と17歳は大人のスケーターへと自立し始めている。
見た目の美しさ大切な審美系スポーツ
フィギュアスケートをはじめとする審美系スポーツは、見た目の美しさも審査対象となるため、常に体重コントロールがついて回る。瞬発力、持久力などアスリートとしての能力を高めることはもちろんだが、ゴツゴツした筋肉は必要なく、しなやかで美しい筋肉、その質を上げた“理想の体”を作り上げることが大切だ。
2人とも「ウエートコントロール」が課題だが、早朝練習を含めトレーニング時間は長く、運動量は非常に高い。練習しない日もない。だからこそ、バランスの良い食事が必要なのだ。
水分補給、温かい汁物がポイント
スケートリンクは寒いため、喉の渇きに気付かないことも多い。三原も坂本もほとんど水分をとっていなかったので、積極的に摂るようすすめた。気付かぬうちに発汗などで水分不足になると、パフォーマンス低下につながってしまう。
また、体を冷やさないため、食事で温かい汁物を摂るのもポイントだ。うどんやみそ汁を摂ることで、胃腸が温まり、消化も良くなる。日頃から長めのアップや服装で調整しているフィギュア選手だが、汁物などの食事で体を中から温めることは大切だという。
10月からGPシリーズ
世界のトップ選手が出場するグランプリシリーズは今月下旬から始まる。坂本は初戦のロシア杯(10月20日~22日)とスケートアメリカ(11月24~26日)、三原は中国杯(11月3~5日)とフランス杯(11月17~19日)にエントリーしている。
気の抜けない戦いの連続。時差のある海外での結果が気になり、松岡さん、西山さんも眠れない日が続くかもしれない。「シーズン通してのサポートは初めてなので、それぞれの特性をつかみながらの試行錯誤は続きますが、しっかり支えていきたい」と松岡さん。よりしなやかに、より強く、三原と坂本の体付きの変化にも注目だ。
1999年(平11)8月22日、神戸市生まれ。15年12月のジュニアGPファイナルで6位に入るも、その後に関節が痛む難病「若年性特発性関節炎」を発症。車いす生活を乗り越え、16年全日本選手権3位。昨季は4大陸選手権優勝、世界選手権5位。154センチ。
坂本花織(さかもと・かおり)
2000年(平12)4月9日、神戸市生まれ。4歳で競技を始める。15年世界ジュニア選手権6位。16年はジュニアGPフランス大会2位、日本大会で優勝し、世界ジュニア選手権3位。同年全日本ジュニア選手権優勝。今季がシニア初年度。156センチ。
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