食べられるにもかかわらず、食品が廃棄される「フードロス」が、社会問題になっている。対策の1つが食材の無駄をなくすこと。ヒントを得ようと、10月に、外務省経済局・経済安全保障課が主催した会を取材すると、通常は捨てる魚のアラを使った、2つの料理に出会った。「あら~麺」に「スープ・ド・ポワソン(魚)」。手がけたのはともに、著名な料理人。「食材を有効利用し、おいしく食べよう」。フードロス対策へ、そんな発信が始まっていた。
ダシの力強さ実感する南仏の定番スープ
10月4日、都内で開かれた「スープ・ド・ポワソンの会」でこのスープを披露したのは、日本人で初めてパリでミシュランの1つ星を獲得した中村勝宏シェフだ。08年の洞爺湖サミットの総料理長も担当した重鎮。現在は、ホテルメトロポリタンエドモントの統括名誉総料理長を務める。
スープ・ド・ポワソンは、日本人にはなじみがうすいが、南フランスでは定番のスープという。魚のアラ(頭や骨など)からダシを取るが、現地では、量り売りされているような魚も使って調理する。具はなく、クリームやバターも一切使っていないが、魚のうまみが凝縮され、濃厚な味わい。コクが口の中に広がり、魚のダシの力強さを実感する。
中村氏は今年5月、国連食糧農業機関(FAO)の日本担当親善大使に任命された。かねてフードロスの問題に警鐘を鳴らし、食材の有効活用の普及にも取り組む。この日は、宮城県・南三陸産の銀ザケを効率よく使い、スープのほか、ポテトと合わせた前菜のサラダ、パイで包んだメイン料理を出席者に振る舞った。
中村氏は、経営環境などの変化に伴い、自身の足元のホテル業界でもフードロスが起きている現状を説明。「ホテルはかなりの食材を使うが、昔なら魚を1匹購入して全部おろし、アラも有効活用した。最近はおろしてもらったものを使う。肉も、骨付きではなくポーションカットしたものを買い、切り分けて料理する。これではものすごく無駄が出る」と指摘。「ダシはすべての料理の基本だが、魚の骨や肉の骨も捨ててしまう。けれど魚のアラから、これだけおいしいスープができるんです」と訴えた。
冷蔵庫で腐らせたり買いすぎなどの経験は、我々にも少なからずあるはずだ。家庭でのフードロス対策を聞くと、中村氏は「調理法はもちろんですが、まずは日本で今、多くの食材の無駄があることを、知らせたい。日本は世界の中でもかなりロスが目立つ。実態を認識し、食材の無駄をなくそうと心がけてもらうのが第一です」と、意識改革の重要さを説いた。
「もったいない」精神にもつながるフードロス対策。食材を無駄にせず、おいしく食べられるメニューを考える努力も、必要かもしれない(下に続く:捨てる魚のアラを使った麺屋武蔵の「あら~麺」/フードロスの現状)。【中山知子】
<フードロスの現状>
国連食糧農業機関(FAO)の調査によると、世界では8億1500万人(16年)が飢餓や栄養不足に苦み、前年から約3800万人増加。一方、廃棄される食品の量も増加傾向で、日本の1年の食品廃棄量は、食料消費全体の約3割に当たる約2800万トンとされる。FAOは今年5月、中村勝宏氏を親善大使に任命。国内での普及活動強化を目指している。あら~麺の会に出席した外務省の堀井巌政務官も、「食料の多くを輸入に頼る日本にとって、食べ物の大切さを理解し、フードロスをなくすことは食料の安全保障の強化につながる」と指摘した。
(2017年10月30日付日刊スポーツ紙面掲載)