<村上睦子さん、加藤貴子さん、山田かがりさんに聞く:下>

 かつての名選手は現役時代、どんな食生活を送っていたのでしょうか。バスケットボール女子の元日本代表としてアトランタ五輪に出場し、1990年シーズンからリーグ10連覇を果たしたシャンソン化粧品(現シャンソンVマジック)の中核選手、村上睦子さん(47)、加藤貴子さん(46)、山田かがりさん(45)が当時の食事の思い出を語り合いました。後編は日本代表での遠征時、そして引退後から現在について話します。

海外遠征でも食欲旺盛

--日本代表で遠征した国の食事はどうでしたか?

山田:海外遠征といえば、そこで出されたおにぎりのおいしさが忘れられない。炊飯器を持参してマネジャーが作ってくれたよね。

加藤:ヨーロッパはご飯がおいしかった。フランス、スペインのホテルでは、前菜、パスタ、メインとコースのように出てきて、量が多かった。

村上:私たちが泊まるホテルは環境が良かったね。あと、オリンピックの選手村ではビュッフェスタイルで、食事に困ったことは特にないかな。

バスケットボール女子アジア選手権。アトランタ五輪出場を決め、笑顔で記念撮影に納まる日本代表の選手たち。前列左から3人目が村上睦子、同4人目が山田かがり、同5人目が加藤貴子(1995年7月30日)
バスケットボール女子アジア選手権。アトランタ五輪出場を決め、笑顔で記念撮影に納まる日本代表の選手たち。前列左から3人目が村上睦子、同4人目が山田かがり、同5人目が加藤貴子(1995年7月30日)

山田:よっぽどクセがあるもの以外は食べられた。海外行く前に食事指導も受けていたから「こういうのは食べましょう、こういうのは避けましょう」と学んで行ったし。

加藤:生野菜、生水、氷は止めましょうとかね。

山田:水道水も飲むのは止めましょうと言われてたけど、飲んじゃった。氷も食べたし。でも、全然平気だった。

村上:かがり、強すぎでしょ(笑)

加藤:ある国ではペットボトルの水でも腹痛を起こす恐れがあるから、歯磨きだけにしましょうとも言われたね。ミネラルウオーターを沸騰させてから飲んでいた。

山田:ブラジルに行ったとき、中川(文一監督)さんが「食べるものがない」と言って、毎日同じものを食べていて、パスタとパイナップルばかりだったのを覚えている。

一同:爆笑

--引退後の食事は変わりましたか?

加藤:現役時代、押し込んで食べていた分、「もう、食べなくていいんだな」と思ってホッとした。量も相当減った。

村上:減ったのもあるし、「これだけ食べろ」と強制されなくなったから、引退した当初は好きなものを好きなだけ食べた。一時的だったけどね。

山田:運動しなくなり、それまでと同じように食べてたらダメだから、食事の量はコントロールするようになった。摂りすぎないように。

村上:みんなはやせたの?

加藤:筋肉は落ちたけど、脂肪がついたから、体重はそんなに変わらない。

山田:5、6キロは減ったかな。

アトランタ五輪開幕前、ウクライナとの練習試合でシュートを放つ日本代表の加藤貴子(左、1996年7月13日)
アトランタ五輪開幕前、ウクライナとの練習試合でシュートを放つ日本代表の加藤貴子(左、1996年7月13日)

村上:私は増えた…。

加藤:みっちゃんは太りそうだよね(笑)。

村上:だから、頑張ってジムに通ったりしているよ!!

偏食せず何でも食べて

--現役選手やジュニア選手に伝えたいことは?

山田:今の子たちは偏食が多い。何でもバランス良く食べた方が、体をしっかり作るにはいい。特に、野菜嫌いな子が多いよね。

加藤:え? 野菜を食べないの?

村上:それって、子どもの頃から食べてないからだよね。

山田:そうだと思うよ。ご飯はパスタだけとか、おかずが何品も出ないんじゃないかな。

村上:家庭の問題もあるね。

山田:「給食を残さず食べなさい」という風潮も以前とは変わってきてるよね。今は「残してもOK」「食べられるもの、食べられる量だけ食べなさい」。私たちの頃は、「残したらダメ」だったけどね。

アトランタ五輪女子バスケットボールグループA、日本対ブラジル ブラジル戦に出場した山田かがり(中央=背番号9)。右は岡里明美(同12、1996年7月25日)
アトランタ五輪女子バスケットボールグループA、日本対ブラジル ブラジル戦に出場した山田かがり(中央=背番号9)。右は岡里明美(同12、1996年7月25日)

加藤:そうそう、「手を付けてなければ食缶に戻していい」とか、「食べられる子にあげてもいい」とかに変わってきている。

息子の食物アレルギーも克服へ

村上:ジェットは子ども(小1男子)が食物アレルギーで大変だったんじゃない?

加藤:最初は卵、小麦、牛乳アレルギーがあったんだけど、今まさに克服しようとしているところ。小麦、牛乳に関しては、病院で「もう大丈夫です」と言われて、卵もだいぶ食べられるようになってきた。

村上:良かったね。卵、小麦、牛乳なんて、どのメニューにも入っていそうなものばかりだから、大変だと思ってた。

加藤:アレルギーのあるものも少しずつ食べさせて適応力をつけさせて、体が大きくなるとともに、食べられるようになってきた。今でも材料や原料は気にして、何が入っているか、表示を必ずチェックする。

村上:学校は給食だよね?

加藤:今は、お弁当を持参している。アレルギーは克服できそうだけど、次の課題は「偏食」。食べられるものが限定されて、「これは食べられるよ」という出し方をして、自分から手を出すことなく育ってきたから食事に興味がなく、好き嫌いが多い。食べるよりゲームっていうのが困ってる。

村上:なるほど、次の課題到来か。でも以前、みんなで集まったときに「子どもがみんなと同じものが食べられないから」ってジェットが米粉のお好み焼きを作って持ってきてたことがあって、子どものために頑張ってるなと感動したんだ。ほかに、工夫してきたことはある?

加藤:今はアレルギー用の食材が増えたから、そういったものを使っている。パスタは米粉のパスタを使うし、レンジでチンして食べられるものもある。アレルギー用ケーキもあるんだよ。

村上・山田:へ~、あるんだ~。世の中便利になってるね。

--村上さんの娘さんは高校1年生。運動・勉強のやる気アップレシピはどういったものでしょう?

村上:と言われても、あまり考えたことなかったな。

アトランタ五輪女子バスケットボールグループA、日本対ブラジル ドリブルで攻め込む日本の村上睦子(右、1996年7月25日)
アトランタ五輪女子バスケットボールグループA、日本対ブラジル ドリブルで攻め込む日本の村上睦子(右、1996年7月25日)

加藤:でも、いつもちゃんと作ってるよね。

村上:確かに、出来合ものはあまり使わない。どうしても…というとき以外は頑張って作っているかな。私は特に娘がやる気が出るレシピとかあまり考えていなかったけど、娘に聞いてみたら、それって「本人が好きなもの」だった。オムライス、唐揚げ、鶏の照り焼きなど…。醤油の甘辛い味が好きで、それをよく作ったりしている。

山田:つまり、子どものやる気アップレシピは子どもの好きなもの。

村上:あと、年に2回ほど主人の実家(岐阜)に帰った際には、「鶏ちゃんのもと」というみそ味のたれを買ってくるの。鶏肉とあえて片栗粉をまぶして揚げた唐揚げも好きだしキャベツやネギと一緒に炒めても美味しくて娘は好きかな。

--最後に、今だから明かせる食事の秘密はありますか?

山田:ケガしたとき、体重を増やしちゃダメなんだけど、我慢できずに食べていて、後々大変になったこと。19、20歳の頃は食べていい量が分からなかった。

村上:太らないようにするのって大変だよね。自分でコントロールしていかに戦うかなんだけど。

加藤:自覚の問題だね。

山田:でも、節制するあまり精神が安定しないなら、少しだけ好きなものを食べた方がいい。

村上:そうだね。精神のバランスが崩れるくらいなら。でも、量をわきまえて食べることが大切だね。

村上睦子(むらかみ・ちかこ)

 1970年(昭45)10月10日、愛知県常滑市生まれ。星城高から89年(平元)にシャンソン化粧品入社。この年の日本リーグ新人王。翌年から2年連続MVP。90年に日本代表入りし、主力ガードとして活躍。96年アトランタ五輪出場、世界選手権などで活躍。愛称はミチ。現姓岩屋。165センチ。

 
加藤貴子(かとう・たかこ)

 1971年(昭46)4月12日、神奈川県生まれ。富岡高では全国高校総体優勝、ウインターカップ準優勝。ウインターカップでは1試合51得点の大会記録をたたきだし、史上初めて高校生で日本代表に選出。日本リーグでは93年度MVP。ポジションはフォワードで、アトランタ五輪出場、世界選手権でも活躍。愛称はジェット。夫の中原雄氏も元バスケットボール選手。180センチ。

 
山田かがり(やまだ・かがり)

 1972年(昭47)6月4日、愛知県出身。名古屋短大付(現桜花学園)3年時に日本代表に選出され、世界選手権に出場。卒業後、シャンソン化粧品に入社。チームの黄金時代の中核を担う。2003年に富士通に移籍。04年に引退後は母校でコーチを務めた後、山形銀行、国体成年女子山形県チームなどを指導した。アトランタ五輪出場。ポジションはフォワード。178センチ。