菌活で金メダル-。空手女子の形で世界ランキング3位の岩本衣美里(29=クリーンコーポレーション、札幌市出身)が、10日に行われる全日本選手権(東京・日本武道館)の女子形個人戦に挑む。日本勢NO・2の世界ランキングを誇る20年東京五輪候補は今年4月から、キノコ生産・販売のホクト(本社・長野市)の栄養指導で肉体改造。悲願の全日本選手権初優勝から、3年後の大舞台を引き寄せる。

アーナンダイを披露する岩本衣美里
アーナンダイを披露する岩本衣美里

 四方八方から忍び寄る敵の姿を頭に描きながら岩本が構えに入る。周りの空気が張り詰める。緊張感が漂う。全日本選手権を目前に控え「国内の一番大きな大会。結果を残して、来年につなげたい」。勝ち上がれば、準決勝で大会4連覇中の清水希容(23)と対戦する可能性がある。打倒女王、そして頂へ。闘志をみなぎらせる。

 3年後の東京五輪切符は1枚限り。現在の世界ランキングは清水に次ぐ国内2位で「何かを変えなければ、抜け出せない」。今年4月、変化を模索する岩本にキノコ製造販売国内最大手のホクトが手を差しのべた。「キノコで菌活」をテーマに食生活改善を推進する、全日本空手道連盟スポンサー企業の栄養指導が始まった。

 毎食後にLINEやメールで食事写真を送信する。内容を分析したホクトの管理栄養士・中村愛香さん(28)から「次の食事は○○を増やした方がいいよ」と助言を受ける。本拠地の北海道でも、練習地の沖縄でも、定期的にキノコの提供がある。サケのホイル焼きなど自ら調理し、食べ続けた。

岩本衣美里
岩本衣美里

 大会前の食事内容が激変した。2日前から糖質の多いご飯を徐々に増やし、おかずはキノコに加え、スタミナのつくうなぎなどを並べる。前日は胃に負担のかかる生ものを避け、キノコと野菜を鍋料理で摂取する。試合前はお汁粉で糖質を補給し、決戦の舞台に立つ。岩本は「試合に最高のコンディションで臨めるようになり、技にキレも出た」と“菌活”効果を実感する。

 全日本選手権の最高成績は2年前の準優勝。国内大会のため最高難度の形「アーナンダイ」の使用が認められない。「(アーナンダイを使える)世界選手権(2枠)に出られれば勝つ自信はある。まず全日本で強さを印象づけたい」。岩本がキノコパワー全開で頂点に挑む。【中島洋尚】

 ◆岩本衣美里(いわもと・えみり)1988年(昭63)5月30日、札幌市生まれ。札幌北陽小2年時に父の影響で空手を始めた。札幌第一高で総体道予選女子形3連覇。北海道工大(現北海道科学大)を経てクリーンコーポレーション所属。13、15年東アジア大会、15年全日本実業団、空手1フランス大会、16年同オランダ大会で優勝。今季はアジア選手権、空手1ドイツ大会、全日本実業団などで優勝。北海道選手権8連覇中。家族は両親と姉、弟。160センチ、55キロ。

 ◆空手女子個人形の東京五輪への道 出場枠1。絶対女王と呼ばれる清水、昨年の世界選手権団体形金メダルの大野ひかる(25=大分市消防局)が、岩本の当面のライバル。世界各国で開催されるプレミアリーグや、シリーズAと呼ばれる国際大会で獲得したポイントで決まる世界ランキングによって、最終的な出場選手が決まる。最新ランクで清水2位、岩本3位、大野4位。来年の世界選手権(11月、ペルー)は出場枠2人。全日本選手権は世界ランキングに影響しない。

 ◆アーナンダイ 最高レベルの形で、世界選手権2連覇中の男子王者・喜友名諒(27=劉衛流龍鳳会)が今年1月の国際大会で実戦投入し、優勝した。沖縄で喜友名と練習を積む岩本も、今年9月の空手1プレミアリーグドイツ大会決勝で「隠し技」として初披露、大野を破って優勝した。1歩足を前に出した時に素早く2回の抜き手を出す動作が特徴的で、従来の「アーナン」の進化形。国際大会では認定されるが、急速に世界に広まった形で、判定が難しいことから、今のところ国内での使用が認められていない。

(2017年12月7日付日刊スポーツ北海道版掲載)