バムアンゲイ・ジョナサン。愛称は「バム」。高校男子バスケットボールの強豪、福岡第一(福岡)の3年生、中部アフリカのコンゴ民主共和国からやって来た留学生だ。
留学生の中にはインサイドでの接触を嫌がり、アウトサイドでプレーしたがる選手も多い。しかし、バムはひたすら愚直にゴール下で196センチの体を張り続ける、頼もしき縁の下の力持ちだ。
井手口孝監督(54)はバムを「日本人よりも日本人らしい。サムライのような選手」と評する。「ルーズボールに一番ダイブするのはバムだし、練習中に一番大きな声を出すのもバム。おじぎもきっちり90度です」。同校では2003年からアフリカからの留学生を受け入れているが、その歴史の中でも、バムのような留学生はなかなかいないと井手口監督は話す。
最初は「まずかった…」
日本から1万キロ以上離れたコンゴ民主共和国の食環境は、日本とはあまりに異なる。主食は「フフ(FUFU)」と呼ばれる、キャッサバ(イモの一種)などの粉を湯で練ったもの。それをちまきのように葉で包んで蒸した「クワンガ(KWANGA)」、キャッサバの葉を煮込んだ「ポンドゥ(PONDU)」、豆の煮込み「マデス(MADESU)」など、日本では全くなじみのないメニューを、基本的に手を使って食べる。
バムが初めて日本食を食べたのは飛行機の中だった。
「何を食べたかは覚えてない…でもまずかった(笑)。お茶(緑茶)も『なんだこれ、めっちゃまずい』って最初思ったけど、今はめっちゃ好き。今は日本のものは全部おいしいです。特に納豆は一番好き。お寿司も魚をそのまま食べるなんて絶対おいしくないと思っていたけど、友だちに『ちょっと食べてみな、おいしいよ』と言われて食べたらおいしかった」。
コンゴ民主共和国ではあまり食べない牛肉を使ったカルビ丼や、カレーせんべいも大好物。唯一嫌いなものは福岡のお隣、長崎県の郷土料理、皿うどんだとか。コンゴには小魚を干した「マテンベレ(MANTEMBELE)」や干物の「ダカラ(NDAKALA)」もあるが、日本では煮干しも、アジの干物もまだ食べたことがないという。
母国は食料難、水だけの日も
民族紛争が多発するコンゴ民主共和国は、世界の最貧国の1つに数えられており、8月の国連の報告によると、現在770万人が飢きんに直面しているという。
稼ぎに出ていない母と2人暮らしだったバムも豊かな暮らしは送っておらず、食事は1日2食取れればいい方で、水だけを飲んで過ごす日も少なくなかったという。来日時はガリガリにやせていた体は、1日3食の食事とトレーニングによって、驚くほどに筋骨隆々になった。
「お母さんとは毎日インターネットで話します。少し前にちょっとやせたんですが、『それではダメ。やせたらダメ。もっとごつくならきゃ』って言われました」。来日してからコンゴには1度も帰っていないが、郷里の母はおなかいっぱい食事を食べ、たくましくなった息子の姿をモニター越しに見つめ、喜んでいることだろう。
卒業後は日本の大学に進む予定だが、まず目の前にあるのは高校最後のウインターカップ(23日開幕、東京体育館、日刊スポーツ新聞社主催)。昨年は、仲間とともに11年ぶりの優勝を手にした。今年も「いい試合をして優勝したい」と意気込んだ。
【青木美帆】