昨年の陸上世界選手権で男子400メートルリレーの第4走者を務め、銅メダルを獲得した藤光謙司(32=ゼンリン)はジュニア時代、極度の偏食で小食だった。5日に行われたJA全農チビリンピック2018(日刊スポーツ新聞社ほか主催)で、当時の食生活を明かした。

チビリンピックで子どもと触れ合う藤光謙司
チビリンピックで子どもと触れ合う藤光謙司

 高校時代の合宿ではなかなか食べ終わらず、最後まで残っていたタイプ。「トレーニングより、食べるのが辛かった」と、アスリートの食事の基本である「バランスよく」「たくさん食べる」が全くできていなかったという。身長は、現在の182センチ近くまであったが、体重は今よりもマイナス10キロの59キロほど。「ガリガリで、ゴボウが走ってると言われていた」。

ケガ多く、食生活改善へ

 大学で寮に入ったが、そこでのご飯も合わず、さらに食生活が乱れた。当然、そんな体では思ったように走れない。「故障が多く、このままではダメだ…」と一念発起し、生活を見直し、食事改善も始めた。「大学の後半からですかね。バランス良く食べるようになり、社会人になってからやりくりできるようになった」と振り返った。

チビリンピックでくす玉割に参加する藤光。右はボクシングの八重樫東
チビリンピックでくす玉割に参加する藤光。右はボクシングの八重樫東

嫌いだった納豆も生活の一部に

 「効果がある」と聞けば、何でも試した。青汁、きな粉○○…。その中で1番長く続いているのは、納豆。「ずっと嫌いだったんですが、ある日、食べられるようになっていて、今朝も食べてきました」。いつの間にか、生活の一部になっているようだ。

 練習後の食事は、東京・北区のナショナルトレーニングセンターの食堂を利用しながら、基盤を整えている。何をどう食べたら、自分の体がどうなるのか。31歳で自己ベストを更新し、世界陸上で大役を果たしたベテランはいまだ進化を遂げている。

世界陸上男子400メートルリレー決勝で、3着を確認し喜び合う藤光謙司(左)と桐生祥秀
世界陸上男子400メートルリレー決勝で、3着を確認し喜び合う藤光謙司(左)と桐生祥秀

好きな物と一緒に苦手も食べる

 そんな藤光は、ジュニアアスリートにこう伝える。「嫌いな食べ物を克服することが、目的ではないだろ」。

 選手としての目標は「速く走りたい」「強くなりたい」「勝ちたい」といったような競技力を高めるもののはず。「そこが明確なら、自然と食事への意識も高まるし、食べられるものも増えてくる」。

 さらに「嫌いなものに無理して向き合うと、もっと嫌になるけど、好きなものを利用して、食べられるものを増やしていく方がいい」とも話した。藤光の場合は「肉」をベースに、ほかのものも食べられるようになったという。少年時代、食に苦しんだオリンピアンの説得力のある言葉だった。

世界陸上男子400メートルリレー決勝で銅メダルを獲得し、記念撮影に納まる、左から多田修平、藤光謙司、飯塚翔太、桐生祥秀(2017年8月10日)
世界陸上男子400メートルリレー決勝で銅メダルを獲得し、記念撮影に納まる、左から多田修平、藤光謙司、飯塚翔太、桐生祥秀(2017年8月10日)

牛乳で背が伸びた?

 身長が伸びたのは牛乳のおかげ? 「食事が苦手」だった藤光だが、暇さえあれば牛乳を飲んでいた。「ご飯に牛乳、という食事もあった」ほどで1日2リットルは飲んでいたという。父は170センチ、母は150センチと特に長身ではなく「家族の中でも自分だけ高い」。骨密度の検査でも数値が異常に高いようで、「牛乳のおかげ」と話していた。

試合前は究極のおにぎり

 0コンマ何秒を争う陸上短距離では、レース前のコンディション調整が特に重要だ。藤光がこだわるのは「エネルギー重視、消化の良い物」。突き詰めていった結果、試合前に食べるものは「米だけのおにぎり」になった。「消化にエネルギーをとられたくない」と走りに全てを集中させている。

 ◆藤光謙司(ふじみつ・けんじ) 1986年(昭61)5月1日、埼玉県生まれ。市浦和-日大。10年アジア大会で200メートル銀メダル。リオデジャネイロ五輪200メートルに出場。予選5組6着(20秒86)。自己ベストは100メートル10秒23(2017年)、200メートル20秒13(15年)。182センチ、69キロ。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】