<アスリートの摂食障害(4)>

 摂食障害に陥ったアスリートはどこに相談し、治療を受ければいいのだろうか。

 日本のスポーツ医科学研究の中枢施設、東京・北区にある国立スポーツ科学センター(JISS)はその1つだ。JISSでは、スポーツ医科学の研究部門、選手や競技団体への支援部門、スポーツ外傷や疾病のケアにあたる診療部門の3つが連携し、日本の国際競技力向上を目指している。JOC(日本オリンピック委員会)、JPC(日本パラリンピック委員会)の強化指定選手、競技団体の強化指定選手であれば、ここを利用できる。

国立スポーツ科学センター(JISS)
国立スポーツ科学センター(JISS)

 これまでのコラムでもお伝えした通り、心身に大きな負荷を抱えながら競技を続けるアスリート、特に女子の摂食障害の発症リスクは、一般に対して2~3倍あるとされている。JISSの心療内科で、心理サポートを担当する臨床心理士・真石万衣子氏は、6月の日本摂食障害協会主催「世界摂食障害アクションディ2018」で登壇し、「特に審美系、持久系、体重別競技の選手にある細身の方が有利との誤った思い込みや、生理があるようではまだ練習が足りないという誤った空気感が、その根底にある」と力を込めた。 

メンタルが弱いと思われる

 2002年~2017年6月までの統計によると、JISSの心療内科(月1回)を受診・来談した131人のうち7割が女性。しかし、最初から心の問題として訪れる選手は少ない。

 「アスリートの世界ではまだまだ、摂食障害をはじめとする心の病やトラブルをネガティブなものとしてとらえがち。『メンタルが弱いと思われる』というような理由から心療内科を訪れること自体、難しい傾向にあり、『体の調子が悪い』と相談を受けた栄養士やトレーナー、メンタルトレーナーを介して受診することが多い」と真石氏。実際診察すると「摂食障害やその予備軍」とされたのは約6割と多く、その半数の13例が摂食障害とされ、すべて「神経性過食症」だった。

 ただ、拒食と過食は繰り返すことが多く、拒食の時期はあったものの気付かなかった可能性もある。医師や臨床心理士との信頼関係が築けるまで、摂食の問題を打ち明けない選手もおり、見つけづらい疾患でもあるが、真石氏は「摂食障害は、アスリートにとって非常に身近」と位置付けている。

日本摂食障害協会主催「世界摂食障害アクションディ2018」で登壇した臨床心理士・真石万衣子氏
日本摂食障害協会主催「世界摂食障害アクションディ2018」で登壇した臨床心理士・真石万衣子氏

JISS対象選手以外にも予備軍が

 一方で、選手と指導者が「競技に問題がないから大丈夫」「選手なら無月経は当たり前」などと放置しているうちに悪化し、JISSを利用できる競技レベルから脱落することもあると、真石氏は推測する。また、JISSを利用できるのは日本のトップアスリートのみで、スポーツ人口からするとほんの一部だ。そこを目指し、日々練習に励んでいる10代選手の中に、「無月経になっている選手、拒食症が潜在している選手は絶対にいる」と真石氏は言い切った。

 JISSではこのような現状を受け、成長期における医・科学サポートプログラムを実施。選手や指導者、保護者に向けて、摂食障害、無月経のリスクに対する啓蒙活動を行っている。以下の資料も公開しているので、ぜひ参考にして欲しい。

【取材:青木美帆、アスレシピ編集部・飯田みさ代】