シリコンバレーの起業家や投資家たちの間で今、「食」と「テクノロジー」を融合した「フードテック」が注目されています。すでに、大豆やエンドウ豆などを主原料とした植物由来の人工肉市場は急成長していますが、次のブームとして予想されているのが「人工魚肉」。健康に良いとされるオメガ3系脂肪酸、DHAやEPAが豊富な魚ですが、海洋汚染や気候変動などでいずれ食べられなくなると予想する専門家もおり、食品業界のイノベーションが進んでいます。
サンフランシスコ近郊エメリービルに拠点を置く、2016年創業のスタートアップ企業「フィンレス・フーズ」はこのほど、魚の細胞をバイオテクノロジーで培養した初のクリーンミート(細胞由来の肉)を開発。乱獲が原因で絶滅危惧種に指定される高級魚クロマグロの細胞を培養、繁殖させて人工魚肉を作り、2019年中に販売開始するといいます。
現時点では、魚のすり身を固めたフィッシュケーキや、スパイシーツナなど巻き寿司の材料となるペースト状の魚肉をレストラン向けに販売する見込みですが、将来的には一般家庭で刺身としても食べられるものを目指し、サケなど、マグロ以外の魚での研究も進めていく予定です。
共同創設者のマイク・セルデン氏は「技術改良によって本物と区別がつかない風味や味覚を再現し、現在市場で売られているマグロと全く同等の品質で、価格も本物と同等か安く販売することが可能」と説明しています。
アメリカでは動物を殺さずに済むという人道的な考えや環境問題への配慮、ヘルシー志向などの理由から、人工肉市場が急激に拡大しています。セルデン氏は「近い将来、海から魚がいなくなる危機感がプロジェクト立ち上げのきっかけになった。2030年頃には、アメリカの大規模畜産業は大幅に減少し、都市部の培養装置の中で生産された安全かつヘルシーな肉や魚を楽しむ時代が来る」と話しています。
天然でも養殖でもない、陸の研究室で作られた魚が食卓に並ぶ日が、間もなく来るかもしれません。
【ロサンゼルス=千歳香奈子通信員】