<フィギュアスケート:グランプリ(GP)ファイナル>◇8日(日本時間9日)◇カナダ・バンクーバー◇女子フリー

シニア1年目でGPファイナル初制覇を果たした紀平梨花には、繊細さとおおらかさが共存する。今季はそのバランスをうまく整えられるようになり、大会前には「周りの期待は特に感じていない」と言えるまでになった。カナダまで応援に駆け付けた母親らの証言をもとに、16歳の素顔に迫った。

グランプリファイナルで優勝が決まり、両手を上げる紀平。右は浜田コーチ(撮影・菅敏)
グランプリファイナルで優勝が決まり、両手を上げる紀平。右は浜田コーチ(撮影・菅敏)

日本の新ヒロインとなった紀平は毎朝8時ごろ、兵庫・西宮市の自宅のキッチンに立つ。「だし、ちゃんと入れた~?」「入れた!」。掃除や洗濯をする母実香さん(47)の隣で得意の卵焼きを作り、この半年ほどは自分で弁当を完成させるのが日課だ。春からネット高校「N高」に進学。朝の起床後や移動中にスマートフォンを用い、科目を履修する。弁当を持って向かう先はリンク。スケートを優先した生活を送る。

数カ月前まで記者数人だった取材は、GP第6戦フランス杯優勝後の帰国時には約40人まで膨れ上がった。それでも5日のGPファイナル前日練習後には「期待が大きくなってきたとかは、特によく分からない。気にせずに練習できている」と笑った。

家でスケートの話はほとんどせず、父勝己さん(51)のジョークには「何言ってんねん!」と自然体。性格は幼少時から変わらず、実香さんも「梨花は昔から友達と一緒にいても、自分からグイグイはいかないタイプ。笑ってついていくタイプ」と振り返る。

グランプリファイナルで優勝が決まり、驚く紀平(中央)(撮影・菅敏)
グランプリファイナルで優勝が決まり、驚く紀平(中央)(撮影・菅敏)

一方で繊細な一面も。スケートでは細かなことまで気になる性格が裏目に出て、ジュニア時代には同じアリーナ内でも公式練習と本番リンクが違うと、調子を崩すことも多かった。

今回は世界最高得点を出したSPに続き、フリーもトップの完全優勝。数々の経験から対処法を学んだことが、最高の舞台で生かされた。浜田コーチは「例えば縄跳びがなかった時に、エア縄跳びをするとか。前だったら『どうしよう、どうしよう、ない、ない…』。その辺りが変わってきた」。

海外遠征には必ずドレッシングを持参し、現地で宿舎近くのスーパーに立ち寄る。レタス、チーズ、ホウレンソウなどを買い集め、栄養のバランスが偏りがちな生活にはサラダで対応。午後9時開始のSP前には、思い切って1時間半昼寝し、好演技へとつなげた。

GPファイナル優勝で、今後はさらに大きな期待を背負う。重圧や、競技における繊細さのマイナス面を補うのが、紀平本来の“おおらかさ”だろう。目標の22年北京オリンピック(五輪)金メダルへ不可欠な「心」のコントロールも、紀平ならやってのけそうだ。【松本航】

(2018年12月10日付日刊スポーツ紙面掲載)