将棋の藤井聡太七段をはじめ、多くの棋士に「勝負めし」を届けてきた東京都渋谷区のそば店「みろく庵」が31日、82年3月の開店から36年あまりの営業を終え、惜しまれつつ閉店した。入居するビルの建て替え計画や、店主の檜垣善啓(ひがき・よしひろ)さん(74)が体調を崩しがちだったことなどもあり、3月末での営業終了を決めた。
84年以降、近くの東京・将棋会館に出前を届けてきた。店の名が全国区になったきっかけは、藤井の出前だ。四段時代の17年6月、将棋界初の29連勝に王手をかけた際、昼食に同店の「豚キムチうどん」(950円)を頼み、店でも注文が殺到。藤井は新記録を樹立し、平成のスター棋士に。おかみのゑり子さん(68)は「藤井さんの力はすごかった」と振り返る。
藤井は先月27日の対局で、同店から昼と夕、出前を取った。「最後になるのかなと思いながら」、肉豆腐定食と玉子雑炊を頼んだ。
周辺には神宮球場、東京体育館、建設中の新国立競技場などがあり、多くのスポーツ選手も来店、出前を取った。五輪メダリストもいる。卓球男子の水谷隼は青森山田高時代、総監督や選手と来店。まず最初に、豆腐を食べていたという。女子卓球の伊藤美誠も4~5歳のころ、水谷の家族に連れられ来店したという。
ヤクルト山田哲人は試合前、銀ダラやサンマの定食を好んで出前。DeNAの筒香嘉智も神宮の試合で出前を取った。平成を代表するアスリートたちの「勝負めし」でもあった。
閉店が近づくと連日、将棋ファンらが列をつくった。年中無休で営業を続けたゑり子さんは「みろく(3・6)でちょうど36年。毎日必死で、あっという間の36年でした」と、笑顔で振り返った。【中山知子】
(2019年4月1日、ニッカンスポーツ・コム掲載)