<東京6大学野球:早大3-2慶大>◇第8週第1日◇1日◇神宮
亡き祖父にささげる安打だ。
慶大・柳町達三塁手(4年=慶応)が1日、東京6大学野球で史上33人目となる通算100安打を達成した。早大1回戦の7回、先頭で左前打を放った。試合には敗れたが、15打席ぶりの安打で一時同点の生還を果たした。
1年春から全89試合スタメン出場
特筆すべきは、1年春から全89試合スタメン出場を続けた末の記録ということ。大きなケガをしたことがない。軽い捻挫などはあったが、日々のケアのたまものと言える。「生まれつき体は柔らかいです」という天性の資質もある。
ルーツは、茨城・稲敷で過ごした少年時代にあった。自然豊かな郷里。木登りなど外で遊ぶことが多く、強い体が育まれた。何より、祖父母のおかげだった。
「両親が共働きだったので、おじいちゃん、おばあちゃんに育てられた感じはあります。よく、おじいちゃんが小魚やスルメイカなど、硬いものを食べさせてくれました。それが基礎になって、小さい頃に体が強くなったのかなあと」
小魚やスルメイカなど硬いもの
高校から茨城を離れ、野球に打ち込んだ。甲子園には行けなかったが、大学での活躍を祖父・幸一さん、祖母・貞子さんは喜んでくれていた。そのことが、柳町にとっても励みになっていた。
別れは突然だった。昨年12月、幸一さんの訃報が届く。84歳だった。自宅で突然倒れ、救急搬送。一瞬、意識は戻ったが、すぐにまた昏睡(こんすい)状態に。横浜で暮らす柳町は、最期には間に合わなかった。予兆はなかったという。「肺が小さくなっていて、もう限界だったそうです。でも、周りは気がつかなかった。全然、元気だったんです。日常生活を送るのも苦しいはずだったのに」。悲しみを抑えるように、ゆっくりと打ち明けた。
痛みを見せない人だったのだろうか。「普通に強かった、というのもあるのかな。僕も、その血を引いているかも知れませんね」と答えた時、少し口元を緩めた。ケガなくやってこられたのは、痛みに強い幸一さんのDNAなのかも知れない。
亡くなる直前に帰省しており、会うことはできていた。ただ、幸一さんを失ったショックは、今春リーグ戦が始まるまで引きずっていたという。
次は高橋由伸氏の通算119本
「おばあちゃんは、まだまだ元気。頑張ろうと思います」
次の目標に、慶大の大先輩、高橋由伸氏の通算119本を掲げた。祖父譲りの強い体で、1本ずつ積み重ねていく。【古川真弥】
(2019年6月1日、ニッカンスポーツ・コム掲載)