<高校野球群馬大会:前橋商7-1富岡>◇9日◇1回戦◇高崎城南球場

最速144キロを誇るプロ注目の左腕、前橋商(群馬)井上温人投手(3年)が高い能力の一端を示した。富岡との1回戦に先発。8回を6安打1失点にまとめて勝利に導いた。

直球の最速は139キロで奪三振は6個にとどまったが、2種類のスライダーを効果的に決め、駆けつけたNPB9球団、計35人のスカウトから将来性を高く評価された。

富岡戦に先発し、8回1失点と好投した前橋商・井上(撮影・片倉尚文)
富岡戦に先発し、8回1失点と好投した前橋商・井上(撮影・片倉尚文)

満足できる内容ではなかった。それでも1失点にまとめた。初戦を突破した井上はほっと息をついた。

「点数をつければ70点。指がボールにかからず、キレもない。その中で勝つ投球はできたと思う」

直球は最速139キロどまり。1回から3回まで、いずれも先頭打者に安打を許すなど苦しんだ。そこで中盤から軌道修正。走らない直球を狙われたことから、2種類のスライダーを軸にして富岡打線を封じた。7回に1点を許したものの、8回115球は公式戦では自己最長だ。

174センチ、68キロ。昨秋の時点で61キロしかなかった小食の少年はこの冬から夕食でどんぶり3杯の白飯を腹に詰め込むなど、増量に力を注ぐ。今年の春季大会ではリリーフ役として背番号「10」。しかし、身体的に成長を遂げて長い回を投げることも可能になり、この大会は堂々の背番号「1」。注目の存在となった。

手本はソフトバンク工藤公康監督。縦に割れるカーブを武器にプロ通算224勝を挙げた左腕の動画を見てフォームを参考にしている。工藤氏同様にカーブ系の変化球を得意にする井上も、やわらかな投球フォームが長所だ。

ネット裏には実に9球団35人のスカウトが集結した。巨人の9人を筆頭に、ヤクルト、DeNAが5人と、8球団が複数態勢で熱視線を注いだ。潜在能力が高く評価されている証しだ。 「とにかくフォームがきれい。けん制、フィールディングを含めて直すところがない。伸びしろがものすごくある投手」と、ヤクルト橿渕聡スカウトグループデスクは絶賛した。

発展途上の18歳。ここからどんな成長曲線を描くのか。注目だ。【片倉尚文】

ドラフトファイル:井上温人
ドラフトファイル:井上温人

▽巨人・長谷川国利スカウト部長 投げ方のバランスがいい。球速はもっと出るはず。体をいかに強くしていくかでしょう。

▽DeNA吉田孝司球団代表補佐兼スカウト部長 いいフォームをしている。可能性を感じる。

▽ロッテ永野チーフスカウト これほどシルエットがきれいな左投手は見たことがない。ボールが指にかかればもっと球速も出る。体ができれば本当に楽しみな投手。

○…9年ぶりの甲子園出場を目指す前橋商ナインに新たなモチベーションが生まれた。住吉信篤監督(45)が4日に左アキレス腱(けん)を断裂。この日は患部を副木で固定して、両脇に松葉つえを挟んでベンチ入り。攻撃時は左足を浮かせて立ち上がり、選手にサインを送った。しかし、ノックは当分できないため「早く治してもらって、『甲子園でノックを打ってもらおう』とみんなで言っている」と井上。『監督に甲子園でノックを』がチームの合言葉になっている

(2019年7月9日、ニッカンスポーツ・コム掲載)