<高校野球石川大会:星稜6-2小松大谷>◇28日◇決勝◇石川県立野球場
星稜(石川)の今秋ドラフト1位候補、奥川恭伸投手(3年)が4季連続の甲子園に男泣きした。 小松大谷を2失点に封じて完投。2日連投で14奪三振、9回に153キロを記録する馬力を発揮した。「高校四天王」でただ1人の甲子園出場。敗れ去った仲間の思いも背負って、ラスト甲子園で思う存分暴れ回る。
奥川は人目もはばからず泣きじゃくった。「負けて泣くな。勝って泣け」-。少年野球時代の教えだ。全力を尽くし切ったから涙があふれた。
「しびれる試合ばかりで、思うことがたくさんあった。みんなと優勝できてホッとしています。今まで頑張ってきてよかったなと思いました」
救援で71球投げた27日準決勝から連投。「少し体が重かった」。4回、6回と1点奪っても、ソロ2本で追いつかれた。本調子を取り戻したのは仲間の姿だった。2-2の9回、東海林航介外野手(3年)が満塁弾。不振にあえいだ男は、ベンチですでに泣いていた。
「東海林をヒーローにしてやりたかった。自分の失点でこういう展開になったのに、みんながつないでくれた。ギアを上げました」 9回の先頭打者に、この日最速153キロ。3人締めでフィナーレを飾った。相手は14年、15年と互いに大逆転サヨナラ劇を演じた小松大谷。ミラクルの気配すらない炎の投球だった。
「周囲から勝って当たり前という見方をされて、重圧があった」。スマホを開くたび甲子園での再会を誓い合ったライバル敗退の報が相次いだ。高校四天王の甲子園切符はただ1人。現チームは石川県悲願の全国制覇の期待も受ける。気持ちで負けないよう、決勝でベンチが指示したプランは「全球ストライクで勝負しろ」。勇気を振り絞って最後まで攻め抜いた。
体調を整えるため、食事は水で流し込んだ。兄圭崇さんが釣ってくるイカや魚の刺身が最高のごちそうだが、大会中は大好きな生ものを一切控えた。責任あるエースの姿だった。
「家族やサポートしてくれた3年生に感謝を伝えたい。甲子園で優勝して、最高の恩返しをして、笑って終わりたい。たくさんの友人たちの思いを背負いながら、堂々と戦います」。重圧から解放され、奥川らしいスマイルが輝いた。【柏原誠】
▽星稜・東海林(9回に決勝の満塁弾)「自分で決めるしかないと思っていた。このチームは奥川。最後も(ヒーローは)奥川でお願いします」
▽ロッテ岩下(星稜OB)「5年前の僕たちと同じ決勝戦の組み合わせとなったので、注目もされて大変なプレッシャーであったと思いますが、そのような試合を制して、甲子園出場を決めたことは本当にすごいことだと思います。甲子園でも最後まで諦めずに優勝目指して頑張ってください」
◆星稜 1962年(昭37)創立の私立校。63年から現校名。生徒数1739人(女子879人)。野球部も62年創部。部員数77人。甲子園出場は春13度、夏20度目。主なOBは元ヤンキース松井秀喜、サッカー元日本代表本田圭佑ら。所在地は金沢市小坂町南206。鍋谷正二校長。
(2019年7月29日、ニッカンスポーツ・コム掲載)