<全国高校野球選手権:履正社5-3星稜>◇22日◇決勝
3安打17三振で完封負けしたセンバツの屈辱から約5カ月。履正社(大阪)が因縁の相手・星稜(石川)を破り、春夏通じて初の甲子園優勝を果たした。
4番井上広大外野手(3年)がバックスクリーン左に特大の逆転3ランをぶちかますなど、星稜のスーパーエース奥川恭伸投手(3年)に11安打を浴びせて5得点。最高の舞台でリベンジを果たした。
お立ち台で歓声と拍手を浴びる井上の目は、赤くにじんでいた。「やっと勝てたので、うれしい気持ちでいっぱいです」。チームの誰もが願った星稜へのリベンジを、4番らしく先導した。
屈辱を振り払う一撃に、井上は右拳を思い切り突き上げた。1点を追う3回2死一、二塁。初球だった。「打った瞬間確信した」。高めに浮いた奥川の宝刀スライダーを捉え、バックスクリーン左に突き刺した。今大会3発目、通算49号は千金の逆転3ランとなった。第1打席はカウント2-2からスライダーで見逃し三振。「2打席目もスライダーが来ると思っていた。狙っていました」。センバツ後テーマに掲げ練習してきた「対応力」の成果を、ここぞの場面で発揮した。
ソフトボールをしていた小5の時。自分でも驚くような大飛球を左翼に放った。走っても走っても打球が落ちて来ない。「気持ちいいなあ」。アーチストへの道を歩み始めた瞬間だった。王貞治がボールの中心から6ミリ下を打つと聞けば練習で取り組んだ。履正社入学直後の練習試合では市尼崎高の校舎の上にある照明にぶつける本塁打。推定150メートルの履正社の歴史に残る「伝説の1発」だ。
頼れる主砲は、後輩たちもリスペクト。打撃指導を求められれば、自ら身ぶりで手本を見せる。面倒見の良さは幼少期からだ。小6から母、弟の3人家族。家庭の事情を幼心に理解し、母・貴美さん(50)に代わり8つ下の弟・■榮(しゅうえい)君の保育園の迎えに行くことも。放課後、友達と遊んでいる最中でも時間が来れば弟の元へ向かう優しい兄だった。
49個目のホームランボールは支え続けてくれた母へ送る。星稜に完敗を喫したセンバツ後、結果が出ずに4番から下位打線に降格。投げやりになる井上に母の喝が入った。「(野球)やめればいい。ゴミ袋に道具まとめなさい」。普段口を出さない母の一言に「本当に頑張らないといけないなと思いました」と改心。甲子園の全試合、スタンドには貴美さんの姿があった。これまでのホームランボールは箱に入れて保管している母が「甲子園まで来るのは、1人では無理。たくさんの人に感謝しています」と言えば、息子は「ここまで続けさせてくれた。甲子園の優勝をと思っていたのでうれしいです」と周囲への感謝があふれ出る。
甲子園の土は持ち帰らない。「プロとして甲子園に戻るのが目標。また戻れるようにという意味を込めました」。この夏、誰よりも聖地が似合うスラッガーになった。【望月千草】 ※■は示ヘンに兄
▽楽天愛敬スカウト(履正社・井上について)「打ち取られた球を、ちゃんと仕留めることが出来ている。センバツの時は受け身だったけど、今は打席の中で整理して打つことが出来ている。スイングに癖がなくて、シンプルに打てる。軌道も良くなっている」
◆センバツVTR 履正社は奥川に毎回の17三振を奪われ、3安打完封負け。4番井上は二ゴロ、空振り三振、見逃し三振で迎えた9回の4打席目、1死一、三塁から投ゴロ併殺に倒れ最後の打者になった。
◆最近10年の優勝 11年の日大三以降、9年連続で関東勢か大阪勢が優勝している。
◆大阪勢25度目V 春11度、夏14度の優勝はともに全国都道府県別のトップ。春夏通算は25度目のV(2位は愛知県の19度)。
◆大阪勢が連覇 大阪勢は昨年の大阪桐蔭に続く大会連覇。夏の大会で同一都道府県の連覇は04、05年の駒大苫小牧(北海道)以来。異なる学校による連覇は74年銚子商、75年習志野の千葉県勢以来、44年ぶり4度目。
(2019年8月23日、ニッカンスポーツ・コム掲載)