男女上位2人が20年東京オリンピック(五輪)のマラソン代表に内定する「グランドチャンピオンシップ(MGC)」は15日に運命の号砲が鳴る。男子は大迫傑(28=ナイキ)が優勝の最有力候補に挙がる。
16年リオデジャネイロ五輪5000メートル、1万メートル代表はマラソンに転向後も、スピードを遺憾なく発揮する。2時間5分50秒の日本記録を出すなど結果を残してきた裏には妻あゆみさん(30)の食事面の大きな支えがあった。
早大時代の大迫は食事に関して無頓着だった。練習さえすれば強くなるという考え。炭水化物もタンパク質も含まれるからとアイスで済ます日もあったという。アルコールも好んだ。
社会人となった15年、寮を出て一緒に住むことになった、あゆみさんは考えた。アスリートの夫のため何ができるか-。「食事が一番大きい」。当時、タレント里田まいがアスリートフードマイスターの資格を取り、夫のヤンキース田中将大投手の体調管理を支えていると知った。夜泣きする1歳の長女優ちゃんを何とか寝かしつけ、深夜に勉強に励み、その資格を取得。栄養学の知識を生かす。
マラソンに転向する時、あゆみさんは「気付かれないよう」ひそかに変化を加えた。大迫は「米を食べると体が重くなるという抵抗」を持っていたという。しかし、長い距離の練習が求められるマラソンはトラックに比べ、炭水化物を多く取る必要があると知っていた。メニューは「丼もの」を増やし、調理も一工夫。肉には小麦粉をまぶし、汁物には片栗粉を入れ、とろみをつけるなど自然に炭水化物の量を増やした。「必要なものを楽しく食べられるように」。それが練習に耐えうる体力を支えた。
一番大切にしているのは「特別に手の込んだ料理はしない」こと。大迫は数日前にうなぎを食べるルーティン以外、日常の延長線でレースへ挑む。だからスペシャルな料理を出すことは「重圧をかける」と心得る。その分、夕食に副菜は3皿以上必ず並ぶ。新鮮な食材を求め、車で片道30分をかけ、買い物は毎日。「やんわり」と尋ねたり、前日のしぐさなどから練習内容も把握。強度の高い練習を積んだ日の夜には筋肉の補修を促す献立を並べる。特別なものはなくても日常には究極の気遣いが詰まる。
世界でのレースで、時差ぼけに苦しむ夫の姿に2年前には「アクティブスリープ指導士」の資格も得た。メラトニンが睡眠を促すと学び、それが多く含まれる野菜ケールは必ず冷蔵庫にある。世間は大一番で盛り上がっても、あゆみさんは言う。「エールなんて言ったら怒られる。けど、お父さんはやってくれると、私も娘も信じてます」。大迫家の絆、日常の結晶が東京につながる。【上田悠太】
(2019年9月14日、ニッカンスポーツ・コム掲載)