<忘れられない味(7)>

札幌市時計台の鐘が鳴る。朝6時、歩き始めた。眠い。でも動かなくては。

春に在宅勤務が続いた。取り返すように、開幕後は各地で人の少ない道を歩いた。知らない道ではなぜかアイデアが湧く。ロッテ井口監督の地元・田無神社からメットライフドームは3時間と5分。大阪桐蔭高から生駒山地の頂上は2時間15分。野球を感じて歩く。築地の日刊スポーツ本社からZOZOマリンは6時間45分。浦安で心が折れかけた。

札幌駅から札幌ドームはそう遠くない。時計台から北広島市の新ドーム建設地を目指した。出発から30分、朝食はセイコーマート。北海道で大人気のコンビニだ。ここの「HOTCHEF ベーコンおかかおにぎり」がうまい。作りたてのぬくもりと、斬新コンビの絶妙な味。北の大地を隅々までドライブしながら、通算30個は食べてきた。

セイコーマートのベーコンおかかおにぎり(一部加工)
セイコーマートのベーコンおかかおにぎり(一部加工)

もう少しで朝8時。初夏の日差しは強い。厚別区の北星学園大あたりから「陽だまりロード」に入る。旧国鉄千歳線の跡地を利用した遊歩道だそう。車や信号が少しストレスになる徒歩旅。どうやらここから新ドーム建設地までは、気分爽快で歩けそうだ。

小学生の登校時間と重なった。50人くらいを、離れて抜かしながら確かめた。日本ハムの帽子が1つもない。寂しい。仙台の朝を歩くと、楽天の「E」をかぶる小学生が驚くほど多い。北広島へ移り、どうなっていくのだろう。

遊歩道は本格的に森へ入り、汗もひいてきた。ジョギングの男性が「おはようございまーす」と言いながら、私を抜かす。すがすがしい野幌原始林。ここなら大丈夫かな。マスクを1分間だけ外し、緑を仰ぐ。3月以降、こんなにも濃厚な酸素を吸ったのは初めてだ。

野鳥の鳴き声から、重機の作業音へ。時計台から3時間35分、新ドーム建設地に着いた。もっと遠いと思った。意外と普通に歩けた。20分後には北広島駅へ。朝10時。ランチの店は見当たらない。電車ならたった17分、札幌駅に戻り本日2個目のベーコンおかか。仮眠しナイターに備えた。

翌日の昼、美味の本丸へ乗り込む。中島公園近くの、株式会社セコマ本社。ベーコンおかかを知りたい。同社広報部は「発売12年目です。意外にとても合う、と開発段階で分かり商品化されました。1度召し上がっていただくとファンになってくださる方も多く、15種類近いおにぎりの中で3位の人気です。茨城や埼玉にも店舗があります」と、畑違いの野球記者の突然の訪問にも快く応じてくれた。(この項おわり)【金子真仁】

(2020年10月9日、ニッカンスポーツ・コム掲載)