今年1月から「おむすび」の補食をとってきた湘南学院女子サッカー部が、来年1月3日に開幕する第29回全国女子サッカー高等学校選手権大会への出場を4年ぶりに決めた。元横浜高校野球部の寮母で管理栄養士の渡辺元美さん(49)の愛情おむすびで、本番に向けてモチベーションを上げる選手たちに話を聞いた。

今年のチームは「両サイドから隙をついて得点に絡むスタイル」が持ち味。全国では先取点を取って勢いに乗りたいと意気込む(チーム提供写真)
今年のチームは「両サイドから隙をついて得点に絡むスタイル」が持ち味。全国では先取点を取って勢いに乗りたいと意気込む(チーム提供写真)

元横浜高野球部寮母の手作り

「すごい、すごいです。元美さんのおむすびパワーですよ! この子たちにとって初めての全国大会です。重い扉が開きました!」。

4年ぶりの全国選手権切符を手にした木村みき監督(41)は興奮気味だった。星槎国際湘南と対戦した神奈川大会決勝では、アディショナルタイムで失点して準優勝。神奈川2位で臨んだ関東予選は16校中7位以内に与えられる出場権を5位でつかみ取った。

練習後に、笑顔で補食を取る(写真左から)北川心子、浅野愛莉、武田愛美、島わかなの各選手。補食によって体づくりの意識が変わった
練習後に、笑顔で補食を取る(写真左から)北川心子、浅野愛莉、武田愛美、島わかなの各選手。補食によって体づくりの意識が変わった

「順位決定戦で勝った時は、みんな抱き合って号泣していました。みんな初めての全国なので、楽しみで仕方がないです」とDF中道はな主将(3年)も興奮が止まらない。木村監督は「思えば1年前、鹿島学園に負けて、体格から大きな差があると痛感したのが、補食を始めたきっかけでした。その鹿島学園に1-0で勝てたことも感慨深かった。体づくりから意識を変えて、選手が頑張った結果です」。1年間の取り組みを振り返り、選手を労った。

エネルギー不足をお米でチャージ

元美さんが作る高タンパク質低脂質のおむすびは、全国大会に向けても継続中だ。今年1月から週4回、1日2個のおむすび補食を続けてきた結果、ほとんどの選手が体重を維持して体脂肪を減らすことに成功した。

「試行錯誤しながらのスタートでしたが、1年経って結果が目に見えるようになってきた。体重・体脂肪のグラフが緩やかに変化しているのを見ると、選手たちが長期的にコツコツと頑張ってきたのがわかるんです。全国を本気で目指すんだという気持ちが伝わってきて、私もうれしくなりますね」と元美さんは言う。

横浜高野球部の寮母時代、甲子園で活躍するための食事を作り続けてきた元美さんは「全国大会はここまでの道のりを支えてきてくれた人たちに最高の笑顔を届けられるよう全力で戦ってきてね」とメッセージを送った
横浜高野球部の寮母時代、甲子園で活躍するための食事を作り続けてきた元美さんは「全国大会はここまでの道のりを支えてきてくれた人たちに最高の笑顔を届けられるよう全力で戦ってきてね」とメッセージを送った

元美さんは練習にも足を運び、選手たちに味のリクエストに応じてアスリート用に改良を重ねてきた。新しいもの好きな女子高生の嗜好に合わせ、いろんな食材から栄養を取り入れられるよう種類を増やした。形も“定番の丸形”から、ライスバーガー風の“サンド型”にすることもあった。

補食おむすびの種類は20種類以上。お手製のPOPには含まれる栄養素と、摂取する目的などのワンポイントアドバイスが書かれている
補食おむすびの種類は20種類以上。お手製のPOPには含まれる栄養素と、摂取する目的などのワンポイントアドバイスが書かれている

中道主将は「練習前、みんなで『今日の味は何かな~?』って予想するのが楽しみになんです。保温箱の隙間から赤い色が見えると『今日はチキンライスだ!』って盛り上がったりしています。みんなで予想を当て合うんですよ」と笑顔を見せる。そんな無邪気な表情を見て、木村監督は「明るい気持ちで練習が取り組めるようになりました」と、栄養だけではないおむすびの力を実感している。

全国大会出場に向けての応援メニューを考案。練習前はシラスとゆかりのおむすびを用意した
全国大会出場に向けての応援メニューを考案。練習前はシラスとゆかりのおむすびを用意した

今月11日には「全国大会・頑張れ!特別メニュー」と題して、元美さんが新メニュー2種類を考案。選手が好きなハンバーグをおから入りにアレンジし、26個1つ1つ焼いて、ブロッコリーと一緒にサンドした。「喜んでくれるとうれしいな」。横浜高校野球部時代もたびたび仕掛けてきた「スペシャルメニュー作戦」で選手たちを驚かせ、エールを送っている。

全国大会に向けてのスペシャルメニュー。元美さんは早朝からハンバーグ26個を焼いて、練習後用のライスバーガー風おむすびを用意した
全国大会に向けてのスペシャルメニュー。元美さんは早朝からハンバーグ26個を焼いて、練習後用のライスバーガー風おむすびを用意した

楽しんでチャレンジした末に勝つ

初戦の相手は1月3日、神戸弘陵(兵庫)に決まった。前身の湘南女子だった1999年に全国制覇しているが、木村監督は「今年はコロナでインターハイが中止になり、試合がほとんどできなかった。選手たちにはとにかく楽しんでほしい。その結果、1勝できればいい思い出ができますね」と、まずは目の前の試合で勝つことが目標だと話した。

1987年創部と神奈川県で最も歴史の長い女子サッカー部。インターハイ3回、選手権8回出場の名門が4年ぶりに聖地へ乗り込む(チーム提供写真)
1987年創部と神奈川県で最も歴史の長い女子サッカー部。インターハイ3回、選手権8回出場の名門が4年ぶりに聖地へ乗り込む(チーム提供写真)

選手たちに目標を聞くと、MF北川心子(ここね)選手(3年)は「大好きなドリブルで相手を抜いて、ゴールを決めて日本一になりたい」。FW浅野愛莉選手(3年)は「とにかく点を取ります! 3点取ります」と威勢が良い。

DF武田愛美選手(3年)は「守備の仕事を果たしつつ、攻撃ではサイドから攻めて点に絡みます」、FW島わかな選手(3年)は「1つのチャンスを大事にして得点につなげたい」、FW吉川麗選手(3年)は「自分の持ち味であるスピードを生かして優勝します。勝って(中道)はなの元に走ります!」と力を込めた。

全国大会の舞台は兵庫県。「最後まで楽しく。笑顔を忘れずに戦いたい」と誓う中道はな主将(左)と吉川麗選手
全国大会の舞台は兵庫県。「最後まで楽しく。笑顔を忘れずに戦いたい」と誓う中道はな主将(左)と吉川麗選手

ケガのため、今大会はベンチから仲間を鼓舞する中道主将は「失うものはなにもない。チャレンジ精神を忘れずに戦い抜きます」と目標を語った。元美さんの補食によって強くなったチームは心と体を自信にし、全国大会で笑顔の花を咲かせようとしている。【樫本ゆき】