また1人、楽しみな小兵力士が幕内の土俵に上がってくる。大相撲初場所(来年1月10日初日、東京・両国国技館)で新入幕を果たした翠富士(24=伊勢ケ浜)は身長171センチで、体重は本人いわく118キロ。3月の新十両昇進時は107キロで、約9カ月で11キロも増やした。

新十両場所こそ負け越したが、中止の5月場所をはさみ、その後は3場所連続で勝ち越して幕内の座を射止めた。その要因を「体重が増えたことが一番かなと思います。持っていかれることがなくなった。トレーニングもずっとやっているんで、いい太り方ができている」と言った。

力士にとって食べることも稽古。「ごはんがあまり得意じゃない」という翠富士の体を変えたのは、母の愛だった。「シーチキン(ツナ缶)とか食ってですね。お母さん(恵さん)が工場に勤めてるんで送ってくれる。1食に2缶ぐらい、マヨネーズかけて食ってます。魚の脂は体にいいらしいんで」。

地元静岡・焼津の漁港はマグロ・カツオ漁業の拠点。その地元の愛に、女手ひとつで育ててくれた母の愛が重なり、大きな相手と戦う体を作り上げてきた。しかし「戦える」自信は、参加した合同稽古で吹き飛ばされたという。「みんなちょっと力が強すぎる。自分もまず、体を作らないとと思った。筋肉で体重を増やしたい。増やせるだけ、動けなくなる1歩手前まで増やしたい」とさらなる増量に意欲を燃やした。

幕内最軽量の炎鵬ら小兵力士が土俵を沸かせている。兄弟子の照強も169センチ、114キロながら優勝争いを盛り上げる活躍を見せた。その波に翠富士も続きたい。目指す“小兵力士像”は描いている。「自分は照強関みたいな相撲を意識しているが、そこまで力ないんで押しながら技を入れていく。照強関と炎鵬関の間みたいな、2人のいいところを入れていきたいです」と話す。

静岡出身では10年ぶり、戦後5人目の幕内力士。11月場所後に帰郷し地元の熱、期待を感じてきたという。「いろんな人に声をかけてもらった。もっと声をかけてもらえるように頑張りたい。新入幕らしく、元気のいい相撲をとりたい」。質問にキビキビと応じる新鋭の活躍、そしてどれだけ体重を増やして初場所の土俵に上がるのか、楽しみになった。【実藤健一】

(2020年12月25日、ニッカンスポーツ・コム掲載)