花巻東高(岩手)野球部の食を支えているのは、地元の豊かな食材です。「メイドイン岩手で強くなる!」。取材日の選手たちは郷土料理「ひっつみ汁」で、心と体を温めていました。
「ひっつみ汁」で冷えた体があったまる~
しんしんと雪が降る中、花巻東の寮からは、温かな湯気が立ちこめ、しょうゆだしのいい匂いに誘われる。この日のメニューは、ひっつみ汁だ。
「あぁ~あったまる~」。熱々の汁を1口すすり、選手たちはため息交じりでつぶやいた。2口…、3口…、雪の中での練習で、すっかり冷えきった体がみるみる温まった。
ひっつみ汁は、岩手や青森南部に伝わる郷土料理。しょうゆベースの汁に、大根、ニンジン、ゴボウ、ネギ、豚肉などに、小麦粉、片栗粉の生地をちぎって入れることから、ひっつみ汁と呼ばれている。寮の食事を担当する(株)花巻ガーデンの高橋秀一さん(67)は「ひっつみ汁は、年配の方はよく作るのですが、今の若いお母さんたちはなかなか作らない。初めて食べた、という選手も多いんですよ。子どもたちに、岩手の味を食べて欲しいと思い、寮で作っています」と話す。
たくさんの野菜が入り、栄養満点なだけでなく、料理人の熱意も込められている。「ひっつみ」は前日から生地の材料を水でのばし、ひと晩寝かせる。選手の食事時間に合わせゆでて水にさらし、2日がかりで完成だ。「手がかかるので、冬に2~3回しかできない。それでも、栄養がありますからね」(高橋さん)と、労を惜しまない。
お米はひとめぼれ、野菜も岩手県産
お米は岩手県産の「ひとめぼれ」。白菜、キャベツ、曲がりネギにリンゴも県産。秋には、地元花巻名物の二子さといもで「芋の子汁」も作る。高橋さんは「選手たちには、地元の食材をたくさん食べていただいて大きな体を作って欲しい」と期待している。
郷土料理は選手たちにも好評だ。清川大雅内野手(3年)は「小さいころ、よく祖母が作ってくれました。当時を思い出しますね。ひっつみ汁を食べると、体の芯からあったまります」と笑顔で話した。
毎日20キロの炊きたてご飯、マネがおにぎり
体を大きくすることも目標の1つ。食事の量を強制されることはないが、定期的に体重チェックがあり、選手たちはそれぞれの目標体重に向け食事とトレーニングに取り組んでいる。佐々木洋監督(45)は「食事を整え、体作りをしっかりさせるための方法を考えています。ご飯だけでなく、タンパク質もうまく取れるようにしたいですね」と話す。
毎日、地元の岩手米飯から約20キロの炊きたてのご飯が提供され、マネジャーが1個約200グラムのおにぎりを部員の数ほど握り、補食として選手たちは練習の合間に食べている。夕食は、ほとんどの選手が2~3杯以上のご飯がノルマ。3年間で平均して10キロ。多い選手で20キロも体を大きくする選手もいる。
花巻東は、09年センバツ準優勝。マリナーズ菊池雄星投手ら当時の部員はすべて県内出身選手で、その夏の91回選手権でも岩手県勢として90年ぶりの4強入りを果たした。エンゼルス大谷翔平投手に、現在のチームもほとんどが県内出身選手だ。ナインは、地元の食材、郷土料理を食べ「メイドイン岩手」の体でもっともっと強くなる。
伝説の「1日10杯飯」、体作りから先輩目標
今でも「1日10杯飯」が伝説だ。かつて、菊池雄星投手、大谷翔平選手は1日10杯のどんぶり飯を食べて体を大きくした。2人とも、入学時から体の使い方はうまく、技術的にもセンスにも光るものがあった。「あとは体を大きくして強くする」ことが明確な課題だった。菊池選手の代のチームは、選手の体形ごとにグループ分けし、夜に食べる量を決めた。グループ全員が食べ終わらないと部屋に戻れないというルールを作り食育に励んだ。
メジャーで活躍する2人の先輩が、選手たちを「自分も」と奮い立たせる。今秋のドラフトで日本ハム育成1位に指名された松本遼大投手(3年)は「雄星さんや大谷さんの話を参考に、胃を大きくするために1年の秋から朝6杯食べて、夜は4杯。昼食や補食もあるので10杯以上食べて体を大きくしました」。
入学からピーク時で20キロ増やし、最速148キロと安定した投球の原動力になった。練習量や食事の量が減った現在も92キロをキープしている。メジャーで活躍する先輩たちの取り組みが、後輩のいい手本となり士気を高めている。【保坂淑子】
◆花巻東 1956年(昭31)創立の花巻商(のちに富士短大付花巻)と、57年創立の谷村学院が82年に統合し現校名に。「感謝・報恩・奉仕・勤勉・進取」が建学の精神。野球部は56年創部。甲子園出場は春3度、夏10度。主なOBにマリナーズ菊池雄星、エンゼルス大谷翔平。所在地は岩手県花巻市松園町55の1。