摂南大学はこのほど、農学部応用生物科学科の井上亮教授らの研究グループが、食事や栄養のサポートが十分でない学生アスリートの腸内環境が深刻な状況であることを明らかにしたと発表した。摂南大学ラグビー部員の腸内環境を調べたところ、一般人と比べて悪玉菌やそれらが作るコハク酸(悪い物質)が多く、コハク酸が大腸炎患者のレベルに達しているケースもあることも分かった。

炎症起こすコハク酸が多く、酪酸少ない

摂南大学の井上亮教授とスポーツ振興センター瀬川智広准教授、農学部食品栄養学科藤林真美教授、京都府立医科大学の研究グループは2020年12月から半年間、ラグビー部員88人(FW57人、BK31人)を被験者として、数回にわたり腸内環境(大便から微生物や有機酸濃度)を調べ、一般人の数値と比較調査を行った。その結果、ラグビー部員の腸内では炎症などを起こすコハク酸の量が多いにもかかわらず、炎症を抑え、免疫を調整する酪酸(良い物質)が一般人より少なく、1/4の選手からは検出もされなかった。

さらに、ラグビー部員の腸内には食物繊維の摂取量が少ないと増える細菌(コリンセラ菌)が一般人の2倍以上存在していた。ラグビー部員は1日4000~4800kcalの食事で12~14gしか食物繊維を摂取しておらず、一般人の平均摂取量17gよりも少なかった。

酪酸は酪酸菌が作るが、酪酸菌を含む食品は少ない。腸内で酪酸を増やすには酪酸菌のえさになる食物繊維を摂取する必要があるが、ラグビー部員は「タンパク質や炭水化物の摂取が体作りに大切」と考え、結果として食物繊維の摂取が不十分になっていることも明らかになった。日頃起こす下痢や軟便も本人や指導者にとって習慣化してしまい、あまり問題視されないのが実情だ。

ほとんどが自宅生、食物繊維不足明らか

摂南大学ラグビー部には寮がなく、遠方の一部学生を除いて自宅から通学。コロナ禍で、チームによる練習後の補食や夕食の提供もなくなり、ほとんどの学生が3食全て家庭、または自宅でとっている。チームの栄養士による栄養指導は、新入生は入学前に、その後不定期に実施しているが、トップアスリートのように毎食管理はできていない。

食物繊維の摂取量は日本人の食事摂取基準によると、男性で1日21gが目標とされているが、実は食べる量に応じて増やす必要がある。井上教授によると「1日に3000~4000kcal、時にはそれ以上摂取するアスリートの場合、食事1000kcalあたり14gの食物繊維摂取が目標となる。その目標値を達成するためであれば、水溶性・不溶性は問わないが、達成しているという前提であれば、両者のバランス、そしてバラエティにも注意して欲しい」と話す。

体重増、便通改善、ニキビも治る

被験者の1人であり、3月に卒業して今はトップリーグの東芝ブレイブルーパスに所属するLO高城勝一選手に、卒業前の4週間、サプリメントと食事で1日40gの食物繊維を摂ってもらったところ、摂取前には検出できなかったビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌が大きく増え、コハク酸の量は1/5に減少した。ラグビー部所属時のエネルギー摂取量を変えずに、体重(筋肉量)が増加、便通の改善、以前はよく出ていたニキビも治るなど、体調が劇的に改善した。

この結果を受け、研究グループは機能性食品の摂取だけでも腸内環境が大きく改善するとみており、現在、食品企業の協力のもと、ラグビー部員の腸内環境の改善を試みている。また栄養改善でのパフォーマンス向上を目指し、今後も研究を続けるとしている。

なお、今回の調査ではポジションによって腸内環境の違いは見られなかった。ただ、調査時期がポジション別の練習よりも全体練習中心の時期で、運動の種類に違いがなかったため、差がでなかった可能性もある。ポジション別の練習が多い時期の調査だと変わる可能性もあるので、追跡調査中だとしている。

さらに井上教授は「下痢は食物繊維不足もだが、運動による虚血再灌流(血液が骨格筋や脳などに中心に送られて腸に行かなくなった状態から、運動をやめることで、急激に血流が戻ること)による酸化ストレスでも起こるので、ダウンをしっかり意識して行うことと、酸化ストレスを低減する食べ物なども意識して摂ると良いと考えられる」と加えた。激しい運動によってストレスがかかる腸をいたわることも、競技力向上の秘訣のようだ。【アスレシピ編集部】