世界的に有名なファストフードチェーン「サブウェイ」のツナサンドイッチの「ツナは本物か偽物か」の裁判が、アメリカで争われている。先日、原告側がツナ以外の鶏や豚、牛の肉が混入していたとする新たな遺伝子検査の結果を証拠として提出し、話題沸騰中といったところだ。

アメリカではこれまでも、ファストフードの食材疑惑や裁判が何度も起きている。アメリカのファストフード店はカロリー表示が法律で義務付けられており、原材料やアレルギー物質の表示をウェブ等々で公開している。要求すれば、店頭でも成分表示一覧を見せてもらえるというが、消費者の中には「ホントにそれ使っているの?」と疑ってかかっている人が多いというのだ。大手ファストフード店を相手にした訴訟がなぜ頻繁に起きるのか、ロス在住27年のライター、千歳香奈子さんが解説する。

ロス在住27年のライターが解説

サブウェイのツナ訴訟の発端は、今年1月にカリフォルニア州在住の女性2人が、「研究所でサンプルを分析した結果、ツナは本物のマグロではない」として損賠賠償を求める訴えを起こしたことにある。6月にはニューヨーク・タイムズ紙が独自にサンプルを研究所に持ち込んで調査し、「マグロのDNAは検出されなかった」との記事を掲載した。

ツナが本物ではないと疑惑を報じたニューヨーク・タイムズ紙の記事(公式サイトから)
ツナが本物ではないと疑惑を報じたニューヨーク・タイムズ紙の記事(公式サイトから)

これに対してサブウェイ側は公式サイトで「米食品医薬品局(FDA)が規定する天然カツオを使った100%本物の高品質ツナ」と反論キャンペーンを展開。ツナの輸入元から製造工程、検査体制、輸送に至るまでの詳細な情報を公開し、サンプル検査した研究機関名を公表していないニューヨーク・タイムズ紙を糾弾した。

サブウェイが公式サイトで展開した反論広告キャンペーン
サブウェイが公式サイトで展開した反論広告キャンペーン

そして今回、原告側は新たに南カリフォルニアにある20店舗で販売されているサンドイッチから採取したサンプルを、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の生体並びに進化生物学部の研究室に持ち込んで調査した。その結果、「ツナ以外のDNAが検出された」として3度目の申し立て修正を行ったことで、「ツナはやっぱり偽物なのか」という論争に火が付いているのだ。

今回のDNA結果を報じたニューヨークポストの記事(公式サイトから)
今回のDNA結果を報じたニューヨークポストの記事(公式サイトから)

多様性、自己主張、金儲け、注目…

「訴訟大国」と呼ばれるアメリカでは、消費者が大企業を相手に十数億円を求める“仰天訴訟”が過去にいくつも起きている。ダンキンドーナツは、ベーグルに塗ったバターが実際にはマーガリンだったとして訴えられた。最近ではケロッグ社のお菓子「ストロベリー・ポップタルト」を巡り、イチゴの含有量が微量で「本物のストロベリーじゃない」として500万ドル(約5億7000万円)の損害賠償を求める訴訟も起きている。

それ以外にも「肥満を引き起こすとは知らずに食べ続けた結果、高血圧と高コレステロールを患った」として10代の若者2人がマクドナルドを訴えた裁判や、氷が多すぎて飲み物の量が少ないとしてスターバックスで起きた集団訴訟、バーガーキングが「通常肉と同じグリルで焼いて、代替肉が汚染された」と訴えられた裁判なども記憶に新しい。

原告が敗訴した例もあるが、大金を勝ち取ったケースも少なくない。1992年にマクドナルドでホットコーヒーを買い、自ら誤ってこぼして火傷を負った高齢女性が「熱いコーヒーを売るマクドナルドが悪い」と訴え、およそ300万ドルを勝ち取った裁判(最終的には60万ドルで和解)が有名なように、アメリカでは「弱い立場の個人が、金儲けをしている大企業を訴える」といった構図が多い。弁護士人口が多いアメリカでは常に金儲けのネタを探している弁護士、中には悪徳弁護士もおり、格好のネタとなりやすいのだ。

また、メディアで大々的に取り上げられることで注目されやすく、便乗する人が出てきやすいこともある。さらに、多様な人種や文化、宗教的背景、価値観を持つ人々が暮らすアメリカでは「一般常識」という言葉が通用せず、幼い頃から自己主張することを叩きこまれている国民性ゆえに、時の権力や大企業などに対抗する手段として訴訟を選択することは珍しいことではないという社会的背景もある。このようなことから、日本では考えられないような訴訟や疑惑がひっきりなしに起きているのだ。

詳細不明、一方的な訴えも多い

一方で、食材疑惑の訴訟には不明点が多いことも指摘されている。過去にはイギリスの有名シェフが、マクドナルドの肉の正体を巡って起こしたとされる裁判では、SNSで自らが主張している以外に詳細は明らかになっておらず、真相は闇の中だ。

企業側からすると、常に正しい情報を公開し、些細なことで訴えられても毅然とした態度をとること、消費者側からすると、デマやうわさに惑わされないよう心掛けることが大切と言える。とはいえ、日々口にするものの訴訟は、消費者としては敏感になるところ。実は私もサブウェイのツナサンドのツナが本物かどうかはかなり気になっているわけで、今後の裁判で事実が明らかになることを期待している。

【ロサンゼルス=千歳香奈子通信員】