世界的な人口増加による食料不足への懸念から、タンパク質を豊富に含む「昆虫食」が注目されている。生産過程における環境負荷が少ないことから、地球環境にも優しいとされ、“ゲテモノマニア”か地方の伝統食と見られがちだった日本でも、先日発表された「ぐるなび」の「今年の一皿」にノミネートされるほど一般的になってきた。

米国でもハリウッドセレブが好んで食べるスーパーフードとして、ここ数年で急速に市場を拡大しており、昆虫を原料にした様々な食品が登場している。米国の昆虫食事情を現地からレポートする。

急速に市場拡大、ハリウッドセレブも好む

昆虫食が話題になったきっかけは、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が食糧危機への解決策として昆虫食を推奨する報告書を発表したことから。日本でもイナゴ、蜂の子などをかねてから食べる地域があるように、昆虫を食べる習慣は世界各国の8割、約20億人に上ることが報告されていた。

その前年に、米国ではコオロギの粉末を使用したプロテインバーが発売されたが、消費者になかなか浸透せず、生産を打ち切る企業もあった。しかしコロナ禍で、肉の生産や流通が滞ったり、値段が高騰したりしたことから、植物由来の代替肉とともに市民権を得るようになってきた。欧米では一部マニアを除き、不快感を示す人が多かったが、女優のアンジェリーナ・ジョリーやニコール・キッドマンが食べていることを明かしたこともあり、認知度が高まっている。

コオロギは一般的、スナックやアイスにも

一般的なものは、コオロギを使ったものだ。元ミシュランの三ツ星シェフが監修するプロテインバーやバーベキュー味の揚げコオロギ、ポテトチップの代替品となるコオロギ粉と豆、米でできたチップス、チョコレートでコーティングしたコオロギ入り抹茶アイスなどが販売されている。

コオロギ入りのアイスクリーム
コオロギ入りのアイスクリーム

コオロギ以外では、ミルワーム(ゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫)のフリーズドドライスナックなどがあり、大リーグのシアトル・マリナーズの本拠地Tモバイル・パークでは、炒ったバッタが観戦時のスナックとして地元ファンの間で人気だという。また、5月に米北部でセミが大量発生した際には、地元のレストランがセミを使ったタコスを売り出して話題になった。

タランチュラの天ぷら、サソリがのったおにぎり

ニューヨークを拠点に昆虫食の普及に努めるアジア系米国人シェフ、ジョセフ・ユン氏は、独創的な昆虫料理を作ることで有名だ。「おいしくて栄養豊富な上、持続可能な食材」として昆虫食の認知度を高めるため、各地で講演会や料理教室、企業とタイアップしたイベントなどを行っている。

タランチュラの天ぷらを報じるCNN(HPから)
タランチュラの天ぷらを報じるCNN(HPから)

タランチュラの天ぷらやサソリがのったおにぎり、バッタのキャラメルポップコーン、セミがゴロゴロ入ったヌードルなど、使う食材も見た目もかなりインパクトの大きなものばかりだが、4回200ドル(約2万3000円)ほどの料理教室は大盛況だという。ユン氏は「世界には2100種類の食べられる昆虫が存在する。まだまだ知られていない昆虫も、味付けや調理方法次第でおいしく食べられることを知ってもらいたい」と話し、バラエティ豊かな食べ方を提案している。

次世代の新たなタンパク源になると期待される昆虫食だが、やはり見た目から口にしづらいのも事実だ。初心者なら、粉末が入ったスナック菓子やスムージーから始めるのが良いだろう。

ただし、セミなどの一部昆虫は、エビやロブスターと同じ甲殻類に近いため、甲殻類アレルギーの人は注意するよう米食品医薬品局(FDA)が警告している。魚介類のアレルギーがある人は避けた方が良さそうだ。

【ロサンゼルス=千歳香奈子通信員】